怪盗レッドス ペシャル 第2話 「2代目レッド」が始まる前のこと
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怪盗レッドス ペシャル 第2話 「2代目レッド」が始まる前のこと

◆アスカside
「「合格おめでとう!」」
コン
と、わたしと実咲(みさき)は、ジュースの入ったコップで、乾杯する。
 小学校の卒業式も終わって、3月も後半。
 春休み中のわたしと実咲は、わたしの家で、ちょっとしたお祝いをしているところ。

 春(はる)が丘(おか)学園中等部からの合格通知は、1カ月ぐらい前にもらっていた。
だけど、小学校の卒業式があったり、新入学の準備があったりで、ちゃんと合格祝いができてなかったんだ。
 それで、やっと今日、実咲とお祝いしてるっていうわけ。
 ……わたしの家のリビングでなんだけどね。

「でも、本当にアスカはがんばったよ。
勉強ぎらいのアスカが、夏休みごろから、ずっと受験勉強にとりくんでたんだから」
「がんばれたのは、実咲が勉強を教えてくれたおかげだけどね。
それに、春が丘学園の見学に行ったとき、『どうしても、この学校に通いたい!』って思ったんだ。
雰囲気(ふんいき)も気に入ったし、制服もかわいかったし」
「それ、わかるよ。
わたしも、春が丘学園を見に行ったとき、すぐに行きたいなって思ったから」
 実咲は、笑顔で言う。
 心から入学を喜んでるのは、表情を見ればわかる。
 でも、ちょっと気になってることがあるんだよね……。
「――ねえ、実咲」
「ん、なに?」
「実咲の学力なら、もっといい偏差値(へんさち)の学校にも行けたよね?
 わたしに付き合わなかったら、もっと行きたい学校も選べたんじゃ……」
「それはちがうよ、アスカ」
 実咲は、はっきりと首を横にふる。
「わたしは、春が丘学園が気に入ったし、中学も、アスカといっしょに通いたいとも思ったの。
それに、ギリギリ届くくらいの学力の学校に行けば、勉強は充実するかもしれないけれど、それ以外の時間がとれなそうでしょ。
わたし、勉強以外のことも、中学ではやってみたいと思ってたんだ。
だから、アスカはそんなこと考える必要は、まったくないよ」
 実咲の表情に、わたしはホッとする。
 受験勉強に付き合ってもらった半年間は、けっこうギリギリのレベルだったから、あまり深く考えていられなかったんだけど。
ぶじに合格したら、不安になっちゃったんだよね。
 でも、今の答えが、実咲の本心だって、わたしにはわかる。
 これでも、実咲との付き合いは長いし、ちょっとした表情の違いでもわかるんだ。
 だけど実咲が、入学したあとのことまで、考えて、学校を決めていたなんて、びっくりだよ。
「わたしは、まだそこまで、ちゃんと考えられないなぁ。
勉強ついていけるかなって不安はあるけど」
 わたしは、ぽつりとつぶやく。
「アスカは、自分は勉強が苦手だって思いこんでるけど、飲みこみは悪くないんだよ。
だけど、苦手意識が強すぎて、勉強にうまく集中できてないと思うんだ」
「そう言われても、苦手なものは苦手なんだよー」
「まあ、その気持ちもわかるけどね。
わたしだって、苦手なものを好きになれって言われても、すぐには無理だし」
「実咲みたいに、勉強が得意だと思えたらなぁ……」
 わたしは、がっくりと肩を落として、ジュースをちびちびと飲む。
「世の中には〝天才〟ってよばれるような、考えられないぐらい頭のいい人だっているんだから。
それにくらべたら、わたしだって、少し成績がいいっていうだけで、アスカと変わらないって」
 実咲はそう言って、なぐさめてくれる。
「――〝天才〟かぁ。
わたし、天才な人とは、なかよくなれなそうだなあ」
 だって、どんな話をしたらいいか、ぜんぜんわからないもん!
「アスカなら、そんなことないと思うけどね。
きっと、相手が天才だろうとだれだろうと、すぐになかよくなっちゃうよ」
 そうかなあ……。
でも、悩まなくたって、天才なんて、そうそうまわりに現れるわけないか。
 春が丘学園だって、それなりに偏差値が高い学校だけど、すっごいハイレベルってわけじゃないしね。
 それよりも、もう2週間で始まる、新生活が、楽しみでしかたがないよ!
「中学校生活、めいっぱい楽しもうね、実咲!」

◆ケイside
カチャカチャカチャ……
とケイはノートパソコンのキーボードをたたく。
 モニターに表示されているのは、チャット画面。
 海外の大学教授や博士たちと、チャットをしているところだ。

Y・О教授:しかし、ケイがジュニアハイスクールに入学するとはね。そんな必要があるのかい?
P・A博士:そうだとも。言ってくれれば、こちらの大学に、いくらでも席を用意したというのに。
Y・О教授:それは抜け駆(が)けではないかね。
今からでもおそくない。うちの大学にきたらどうだろうか。
KEI:お誘(さそ)いはうれしいですが、自分で考えて決めたことです。
推薦(すいせん)だけで入学できましたし、それに自由もきく学校のようなので、研究時間もとれると思います。
P・A博士:ケイがそう言うのなら、これ以上は言わないが。気が変わったら、いつでも言ってほしい。歓迎するからね。
Y・О教授:わたしもだよ。よい学校生活を。

※Y・O教授、P・A博士が退出しました。
※KEIが退出しました。

 ケイは、パソコン画面から顔を上げる。
 それから、わずかに、顔をしかめる。
 2人で住むには、少し広すぎるマンションの部屋には、段ボール箱が山積みになっている。
 それもそのはず。今は引っ越しの準備中だからだ。
 それは、べつにかまわない。
 だけど、問題があると、ケイは思っていた。

「――――父さん。なにをかくしてるの?」
 ケイは、山積みの段ボール箱の向こう側で、荷物を整理している、父親の圭一郎(けいいちろう)に問いかける。
「え? かくしてるって、なにをだい?」
 父さんは、とぼけた様子で返事をする。
「春が丘学園を、特に理由もなく、ぼくに強く勧(すす)めてきたのは、父さんだ。
それに、急に引っ越しを決めたのはともかく、引っ越し先を、ぼくは教えてもらっていないよ」
 ケイが、気になっているのは、そこだ。
 引っ越し先を、まだケイは知らない。
 そんな引っ越しがあり得(う)るのか、と思うけれど、父さんは、無意味にそういう嫌がらせのようなことを、する人じゃない。
 きっと、なんらかの理由があるのだろう。
「それは、ちょっとしたサプライズだからさ。
それに……
ケ(、)イ(、)な(、)ら(、)、調(、)べ(、)よ(、)う(、)と(、)思(、)え(、)ば(、)調(、)べ(、)ら(、)れ(、)る(、)だ(、)ろ(、)う(、)?」
 父さんは、挑発(ちょうはつ)するようにケイを見る。
 ぐっ、とケイは息をのむ。
「――父さんのことだから、対策済みでしょ。
父さんのセキュリティは、今まで一度も突破できたことがないし。
ムダなことはやめとく」
 ケイは、首を横にふる。
 今まで、何度か挑戦したことはあるが、いつも簡単にあしらわれている。
 ケイが腕をあげても、それ以上に、父さんが腕をあげてくる。
 ――教授や博士たちは、ぼくを〝天才〟だと言うけれど、それなら父さんも、まちがいなく〝天才〟だ。
 なぜか今まで、論文など、ろくに発表したことはないそうなんだけど。
 そのことが、ケイには不思議でしょうがない。
「つれないなぁ。
でも、ケイにとって悪いことではないよ。
それは保証する」
「だといいけど」
 ケイは、とりあえず父さんの言葉に納得しておく。

 ケイは目の前の段ボールにむかって、小さくため息をつく。
 このマンションの部屋には、亡くなった母さんとの思い出がつまっている。
 それを手放すときいたとき、なにも思わなかったわけじゃない。
 だけど、なにより父さんが、そうと決めたことが意外だった。
 母さんが亡(な)くなったとき、だれより落ちこんでいたのは、父さんだったから。
 ……でも、ちょうどよかったのかもしれない。
 この部屋にいると、嫌でも母さんのことを思いだす。
 思い出がありすぎる。
 それは父さんも同じ気持ちかもしれない。
 それなら、引っ越すという決断を、父さんがしたことも、わからなくはない。
 どこへ引っ越すのか知らされていないことは、やはり気になるところだけど。

 でも、〝未知〟はきらいじゃない。
 大学での研究は、〝未知〟を解き明かすもので、だからこそケイは興味をひかれている。
 これも一種の〝未知〟なのだろう。
 それに、父さんにはああ言ったけれど、いくつか引っ越し先の推測は立ててある。
きっと、どれかが正解だろう。
 ――どれが正解だったとしても、自分がうまくやれる自信はないけど。
 ケイにとって、人間関係は、あきらめた分野だ。
 大学教授や、博士のような人たちとは、話はうまくできる。
 それなのに、同世代とはなにを話していいのか、まったくわからない。
 それに、どうやらケイと関わった同世代の子どもは、ケイのことをよく思わないらしいということも、これまでの人生で経験ずみだ。
 嫌がらせや悪意を受けるのは、めんどうでしかない。
 それなら最初から、なるべく人と関わらず、距離をとっているほうがいい。
 引っ越し先でも、春が丘学園での生活でも、そうするつもりだ。
 それしか、ケイはめんどうな悪意を受けない方法を知らない。
 ……どうせぼくは、ぼくのままでしか、いられないのだから。
 そう結論づけて、ケイは止まりかけていた引っ越し作業を再開した。 

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第3話につづく

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