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怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 11.兄弟の食いちがい

累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読み連載。

11.兄弟の食いちがい

 図書館は、静かだから好きだ。
 目の前に広がる本棚のつらなりに、僕は思わず、笑みをこぼす。
 学校が終わって、僕はさっそく市立図書館にやってきていた。
 過去の新聞記事を調べるのなら、やはりここが一番手っ取り早い。
 本当は1人で黙々とやるつもりだったのだが、
「どうして、いるんですか」
「だって、気になるだろう?」
 なぜか、翼先輩もついてきていた。
 市立図書館に向かおうとしていたところ、いつものように、僕の教室にやってきた翼先輩と出くわしたのだ。
 そこまではいい。
 僕はいつもどおりに、適当に話をして別れるつもりだったのに、妙に勘のいい翼先輩に気づかれたのだ。
「で? これからどこにいくつもりなんだ?」
 観察眼の一種なんだろうけど、本人に自覚がないところが、アンバランスに感じる。
「ちょっと調べたいことがあって、図書館にいくんです」
 下手に隠すと、かえって勘ぐられると思って、素直に話す。
「じゃあ、おれもいく」
 翼先輩は、あたりまえのように言う。
 どうしてそうなるのか?
 ただ図書館にいくだけと、言っているのに。
 あそこまでいくと、「動物的な勘」では説明できない鋭さだ。
「なにか予定はないんですか、翼先輩」
「今日はどこからも部活の助っ人をたのまれていないし、ヒマだな」
 今日、助っ人をたのまなかった部活の人たちを、ちょっとうらめしく思う。
 とはいえ、そこまで拒否することでもないか、と思い直す。
 そんなわけで、僕と翼先輩は、いっしょに市立図書館にやってきた。
 図書館の奥に進みつつ、僕は調べたいことを整理する。
 まず調べるのは、高校生探偵・七尾蓮が解決した、過去の事件についてだ。
 ネットでざっと調べはしたが、当時の新聞記事も読んでおきたい。
 高校生探偵が注目されだしたのは半年ほど前からというから、遡るのはそう難しくないはずだ。
「それで、なにを調べるんだ?」
 翼先輩がきいてくる。
「最近ニュースでやっていた、高校生探偵について、ちょっと調べてみようかと思っただけです」
 僕は答える。
「なるほどな。引っかかることがあったわけか」
「引っかかるなんて言ってませんよ。ただ、少し気になっただけで」
 僕は念を押しておく。
 べつに、なにかの確信があって、調べているわけじゃない。
「どうだかな」
 高校生探偵に対して、妙な先入観を持たせてしまったかもしれない。
 僕は、受付の司書の女性に、過去半年ぶんの、七尾蓮が解決したとされる事件の記事が載っている新聞の閲覧申請を出す。
「用意には、15分ほどお時間をいただきますので、館内でお待ちください」
 司書の女性に言われて、僕は受付をはなれる。
「15分待ちです。僕は本を見てまわりますけど、翼先輩はどうしますか?」
「おれも、適当にぶらぶらしてるよ」
 僕はまっすぐに、理系の学術書がそろう棚に向かう。
 物理学、化学、量子力学など、専門書が多くならぶ棚だ。
「これは……」
 僕は、量子力学の棚で、興味を惹かれる本を見つける。
 手を伸ばそうとするが、思いとどまる。
 館外への持ち出し禁止の棚だ。
 15分で読み終わるわけもなく、中途半端に読んだら、よけいにつづきが気になるにちがいない。
 僕はグッと我慢して、本棚を移動する。
 そうしているうちに、15分はあっという間にたっていた。
 受付にいくと、さっきの司書の女性が、新聞の束を用意していた。
 50? 60? かなりの新聞の数だ。
「こちらは、館内でのみ閲覧可能になっております」
 司書の女性の注意事項をきいてから、僕と翼先輩は新聞の束を持って、空いているテーブル席にすわる。
「どうやって調べるんだ?」
 翼先輩がきいてくる。
「地道に、記事を、全部読むんです。それが一番、情報が手に入る近道ですから」
 僕の答えに、翼先輩はげっそりした顔をする。
 調べるということは、山のような資料に当たっていく、地味な作業も多い。
 かんたんにすませようと手抜きをすれば、偽の情報をつかむ可能性も高くなる。
 僕は、一番上の新聞を手に取って、記事を探す。
 パラパラと新聞をめくっていくと、高校生探偵が解決したとされる事件の記事が、見つかった。
 僕は丁寧に記事を読む。そして、ほかに事件の記事がないことを確認すると、次の新聞にうつる。
 この繰り返しだ。
 1時間ほどかけて、すべての新聞の事件記事を読み終える。
「つ、つかれたな……」
 翼先輩は、テロリストと戦っているときより、つかれたような顔をしてる。
「そうですか?」
 対して僕は、いつものことなので、疲労感もまったくない。
「で、なにかわかったか? 圭一郎」
 翼先輩が、声をひそめてきいてくる。
「これを返却して、外で話しましょう」
 僕はすぐに答えず、新聞を持って立ち上がる。
 僕と翼先輩は、受付に新聞を返却すると、図書館の外に出る。
 図書館のまわりは、小さな公園のようになっている。
 道路との間の緑樹が目かくしになっており、さらに小さな芝生があって、少し間隔を空けてベンチもおかれている。
 持ち出せる本を外で読みたい人などは、借りてきてここで読むらしい。
 いまもそれぞれのベンチに数人がすわっていた。
 僕と翼先輩は、空いているベンチにすわる。
 翼先輩が、急かすように目線で話をうながしてくる。
 僕もまだ考えがまとまっているわけではないのだけど、手伝ってもらったのに、なにも話さないわけにもいかないか。
「まずわかったのは、この高校生探偵の事件解決には、いくつか疑問点があることです」
 僕は前置きをせずに、説明を始める。
「疑問点? それは、高校生なのにこうも事件を解決できること、とかか?」
「それは僕たちも、大して変わらないでしょう」
 中学生と小学生が、強盗グループやテロリストを相手にして、事件を解決に導いたことがある。
「それもそうだな」
 翼先輩がうなずく。
 たとえ人に知られなくても、年齢と能力が、疑問点にならないことは、僕たち自身が証明している。
「僕が疑問に感じたのは、別のところです。――事件がおきてから、高校生探偵が捜査に乗り出したと予測されるタイミング。そこから、解決にいたるまでの時間です。早いものでは1週間。長くても1カ月ほどで解決しています」
「それだけ七尾が優秀な探偵だ……っていうことじゃないのか?」
 翼先輩は、どこが疑問なのかがわからない、という顔をしてる。
「そうかもしれません。でも、事件というのは、いつも一定の条件下でおきるわけではないんです。犯人が国内で逃げまわるかもしれませんし、すぐに海外に逃亡しているかもしれません。証拠をほとんど残さないかもしれない。それなのに、関わる事件のすべてが、一定の期間で解決されている、というのは確率的におかしいんです」
 いくら捜査する人間が優秀であろうと、解決に半年かかることもあり得るし、1年かかったとしても、おかしくない。
 なのに、彼は関わったどの事件も、1カ月以内で解決に導いている。
 そこが不自然だ。
 いつもスピード解決しているからこそ、たった半年で有名になったということでもあるのだけど。
「解決できそうな事件だけを、引き受けているとかじゃないのか? 解決できそうもない事件には、口も出さないとか。それなら可能だろう」
「そうですね、その可能性は高いですが、……もう1つ気になることがあるんです」
「なんだ?」
「七尾の手がけた事件の、犯人の動機についてです」
「動機?」
 翼先輩は、意外そうな顔をする。
「あまりにも、似ているんです。動機はどれも、お金がらみです。それ以前に、盗みや強盗などの事件をおこしている犯人も多くいました。また、犯人がつかまっていないケースでは、盗まれた品だけとりもどしたところで、七尾蓮は捜査を終了しています。犯人の捜索は、警察にまかせるかたちになっているようです。しかし、警察は、犯人をつかまえられないままです」
「ふむ……」
 翼先輩も、疑問を覚えたらしい。
「ただ、これが高校生探偵を疑う理由になったかといえば、ただの疑問にすぎません。それが今日、調べてみた結果です」
 僕はそう結論づける。
 僕が語ったのは、あくまで「そういう見方もできる」というだけの話だ。
「なるほどな。それで? おれたちは、これからどう動く!?」
 翼先輩は、身を乗り出して、きいてくる。
「動く? いえ、なにもするつもりはありませんけど」
 僕は、意味が分からず、きょとんとする。
「ちょ、ちょっと待て! 怪盗レッドの次のターゲットになるかもしれないと思って、調べてたんじゃないのか!?」
「いえ、まったく違います」
 僕は、はっきりと首を横にふる。
「そもそも、これまでの事件で僕は、黄瀬さんや緑谷先輩があぶない可能性があったから、動いたんです。今回は、知り合いが被害にあったわけじゃありませんし……。本当に高校生探偵があやしければ、いずれ警察も気づくでしょう」
 前に僕が自分から事件に首をつっこんだのは、近しい人や知っている人が巻きこまれているかもしれないという、成り行きだったからだ。
 自分と関係のない事件なら、警察に任せるべきだろう。
 僕は、ふつうの中学生でしかないんだし。
「だが、もしその高校生探偵がなにかしているのだとしたら、警察が気づいて手を打つまでに、被害者が増えるだろう。――――ほうっておけないだろ、怪盗レッドとして!!」
 翼先輩は、力を込めて言う。
 怪盗レッドとして……。
 僕はしばらく、自分に問いかけてから、顔を上げた。
「……先輩。僕は、翼先輩みたいに、怪盗に――義賊になるために、生まれたときから訓練を受けてきたわけじゃありません。だから……見ず知らずの人を僕が助けなければならないとは思えません」
 冷たいと思われるかもしれないけど、これが正直な気持ちだ。
 そこまでのお人好しにはなれない。
「それは……」
 翼先輩は、グッと唇をかむと、ベンチから立ち上がる。
「………………わかった」
 翼先輩が、静かに言う。
「たしかに圭一郎を、いきなり巻きこみすぎた。今回のことは、こっちだけで調べる。取っ掛かりを教えてもらえただけでも、助かった」
「疑問を持っただけですから」
 それだけおたがいに言うと、翼先輩は視線を合わせないまま、その場からはなれていく。
 1人、ベンチにすわったままの僕は、空を見上げる。
 もうすぐ日が落ちて、暗くなりそうだ。
 まわりを見ると、もうベンチにすわっている人はいない。
「ふぅ……」
 僕はため息をつくと、ぽつりとつぶやく。
「……だって、見ず知らずの人と、大切な人なら、大切な人の安全をとるだろう」

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<第12章へつづく>

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