怪盗レッド スペシャル 第1話 アスカのあったかい年末
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怪盗レッド スペシャル 第1話 アスカのあったかい年末

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「うわぁ、やっぱり混んでるなぁ!」
 わたしは、商店街の入り口までやってきて、人混みに声をあげる。
 今日は12月31日。
 大晦日(おおみそか)だけあって、みんな買い物にきているみたい。
「寒い……
アスカ、早く買い物をすませよう」
 ダウンジャケットにマフラーをぐるぐる巻きにしたケイが、首をすくめながら言う。
 今日は、いちだんと冷えて、雪が降りそうなぐらい。
 商店街にやってきた人たちも、足ばやになってる。
 わたしは、寒さはぜんぜん、気にならないんだけどね。
 今朝も、10キロのジョギングしてきたし。
「それじゃあ、お父さんに頼まれたもの買って、いそいで帰ろう。
早く買って帰らないと、お父さんのお鍋(なべ)の仕込みに影響がでるかもしれないし!」
 わたしは、力をこめて言う。
 なぜか、ケイはあきれたような目で、見てきたけど。
 お父さんのお鍋が、食べられなくなったら、大変なんだからね!

 まずは、八百屋(やおや)さん。
「おばちゃん、こんにちは!」
 わたしは、顔なじみの八百屋さんのおばちゃんに声をかける。
「あら。アスカちゃん、それにケイくんだったね。いらっしゃい!
 いい野菜が入ってるよ」
 おばちゃんが、威勢(いせい)のいい声をかけてくる。
「今日はお鍋なんだ。
だから、白菜1玉に、大根と長ネギ3本ずつに、にんじん3本ちょうだい」
「はいよ! じゃあ、おまけで春菊(しゅんぎく)をつけとくよ。
新鮮で、お鍋に入れると、いい味になるよ」
「ありがとう! おばちゃん」
 わたしがお礼を言って、となりでケイが、ぺこりと頭を下げる。
「来年もよろしくね~、アスカちゃん」
「はい、よいお年を!」
 八百屋さんの次は、魚屋さん。
 こっちにも、よく知っているおじちゃんがいる。
「おじちゃん、今、大丈夫?」
 わたしは、ちょうど接客を終えた、おじちゃんに声をかける。
「らっしゃい! アスカちゃん、それにケイくん。
もちろんだとも。とれたて直送の魚がそろってるよ!」
 おじちゃんが、景気良く、まくしたてる。
 商店街での買い物は、こういう活気があって好きなんだよね。
「ブリと、サーモンあるかな?
 お鍋に入れるんだけど」
「鍋用だと、このあたりの切り身がおすすめだね。それでいいかい?」
「はい、おまかせで!」
 おじちゃんの目利(めき)きは信用できるから、こういうときは心強い。
 わたし、食べる専門で魚の見分けなんてできないし。
 ……あっ、でも、もしかしてケイはできたり?
「――ぼくも魚の良し悪しは、知識しかないから、ムリだ」
 わたしの疑問を察したらしいケイが、答える。
 さすがのケイでも、無理らしい。
 だけど、魚の良し悪しの知識は、あるんだ……。
「ブリのあらも、おまけしといたよ。
いい出汁(だし)が出るから!」
 魚屋さんのおじちゃんが、魚の入った袋を、手わたしてくれる。
「おじちゃん、ありがとう! よいお年を!」
 わたしは袋を受けとって、その間にケイが会計をすませる。
 
魚屋さんをはなれて、商店街の来た道をもどる。
 野菜の入った重い袋はわたしが持って、軽めの魚の袋は、ケイが持つ。
 重いものを持てるのは、わたしのほうだから、自然とそうしてる。
 会計をケイにまかせるのも、2人で買い物するときは、いつものことだし。
 わたしとケイは、そのまま団地のわたしの家に帰る。

「ただいま~!」
 家に帰ると、わたしはさっそくキッチンに、食材を持っていく。
「おっ、帰ってきたな。じゃあ、さっそく腕をふるうとするか」
 お父さんが、キッチンで待っていて、さっそくお鍋のしたくにかかる。
 今日は、お店はお休みなんだって。
 大晦日のレストランって、開けたほうがいいんじゃない? って思うんだけど。
「家族ですごす時間を大事にしてこそ、お店でもがんばって働ける」
 っていうのが、お店のオーナーの方針なんだって。
 圭一郎(けいいちろう)おじさんも、今日は家にいて、リビングでテレビを見てる。
 わたしも、手洗いとうがいをしてから、あっちにまざろうっと。
 ケイは、部屋で、またパソコンに向かうみたい。
 わたしは、お父さんの料理を手伝いたいところだけど……。
どう考えてもお父さんの手ぎわの良さについていけないんだもん。
 ここは、大人しく料理ができるのを待っているほうがいい。
 できあがった料理を運ぶのは、もちろん手伝うけどね!

「おじゃましま~す!」
 夕方の6時過ぎ。
 玄関のドアが開いて、声がする。
 家の合い鍵(かぎ)を持っているのは、家の中にいたわたしたち4人以外だと、あとは1人しかいない。
「美華子(みかこ)さん、いらっしゃい!」
 リビングに姿を見せたのは、美華子さん。
 お父さんと、圭一郎おじさんの妹で、貿易会社の社長なんだ。
「兄さん、これおみやげ」
 美華子さんは、キッチンにいるお父さんのところに行って、袋をわたす。
「なになに? おいしいもの?」
「ベルギーに行ってきたから、チョコレート。王室(おうしつ)御用達(ごようたし)の、いいやつだから、あとでじっくり味わって」
「王室御用達のチョコ!?」
 って言われても、想像がつかないんだけど。
「ベルギー王室の御用達になるには、厳しい審査があるんだ。
特にチョコレート大国のベルギーでは、競争がはげしい。
日本だと、ゴディバが有名だ」
 いつの間にか、ケイが部屋から出てきてる。
「さすがにくわしいわね、ケイ。
今回はゴディバのチョコレートではないけど、おいしいのはまちがいないから」
「でも、ケイはチョコ苦手だから、食べられないんじゃない?」
 そう、ケイはチョコがダメなんだよね。
 いくら王室御用達でも食べられないんじゃ……。
「そうだと思って、ケイの好きなコーヒーも持ってきたわ。
豆は、インドネシア産のマンデリン」
 まんでりん? なにそれ?
コーヒーの種類なの?
「上質なものは、なかなか手に入らないという話なのに」
「ふふふっ……それは私のコネでね。伊達(だて)に貿易会社の社長はしてないわ」
 そんなふうに、ケイや美華子さんと話していると、
「おーい、鍋の用意ができたぞ。手伝ってくれ」
 お父さんから声がかかる。

 手伝いをして、あっという間にリビングのテーブルに、5人が集まった。
みんなでお鍋をかこむ。
 この家族5人でかこむお鍋って、初めてかも。
 ぐつぐつと煮えているお鍋からは、魚と野菜のいい匂(にお)いがしてる。
 それじゃあ……。
『いただきます!』
 5人そろって、手を合わせて、まずはお鍋を取り分ける。
 さっそく、ひと口。
「はふはふ……」
 熱いのを冷ましつつ、わたしは白菜とブリの切り身をかみしめる。
 ふわっと鼻にぬける、魚の味わい。
 それに、白菜のほどよい食感に、かむたびにあふれる出汁。
「う~ん……幸せ。
やっぱりお父さんのお鍋は最高だよ!」
 わたしは、いつも通りのお父さんのお鍋のおいしさに、お箸(はし)が止まらない。
 ケイも、もくもくと食べているから、このお鍋の味が好きなんだと思う。
 お父さんのお鍋は、具材は変わっても、基本はいつもこの味付けなんだよね。

「この味、なつかしいわね……」
 そんな中、ぽつりと美華子さんが言うのがきこえる。
「なつかしい……って?」
 わたしは、味の感想にしては不思議な気がして、美華子さんにきく。
「ええ。
だって、この味付けは、杏子(きょうこ)さんと美(み)緒(お)さんが2人で考えたものなのよ」
杏子さんと美緒さんって……わたしとケイのお母さんが!?
「ほら、料理は、翼(つばさ)兄さんが得意でしょ。
そこで杏子さんたちが2人で、どうにかして翼兄さんをうならせる味付けの料理を作ってやるんだーって言って、できあがったのが、このお鍋だったの」
 そうだったの!?
 わたしはびっくりして、お父さんとおじさんを見る。
 ケイも初めて知ったらしく、お箸を止めている。
「美華子。その話、2人には、まだしてなかったんだぞ」
「あら、そうなの? でもなんで?」
 美華子さんが、お父さんの言葉に、不思議そうにする。
 そうだよ。これがお母さんたちの味付けなら、もっと早く、そう教えてくれればよかったのに!
「かくすつもりはなかったんだが、
色々と心の整理がついたころに……と思っていたら、タイミングをなくしてな。
由来(ゆらい)を知らなくても、アスカもケイも鍋の味を気に入っているようだし、特に説明することもないかと思って、ずるずるときていたんだよ」
 お父さんが「今まで、だまっていて悪かったな」と、申し訳なさそうにする。
「ううん、お父さんは悪くないよ!
 お母さんたちの味を、今でもずっと再現して食べさせてくれてるんだし。
また1つ、このお鍋の味が好きな理由が増えたよ。
ね、ケイ?」
 わたしは、ケイを見る。
「……ああ」
 ケイは小さくうなずき、食事を再開する。
 ああっ! わたしも食べるっ!
 お鍋から、おかわりをよそって、わたしも、はふはふと味をかみしめる。
 う~ん、やっぱりおいしいっ!

 ピンポーン。
 お鍋もだいたい食べ終わったころ、玄関のインターホンが鳴った。
「あれ、だれだろう、こんな時間に」
 わたしは立ちあがって、インターホンに出る。
「郵便局です。お届け物です。印鑑(いんかん)いただけますか」
 お届け物?
 だれからだろう。
 不思議に思いつつ、玄関に出る。
「こちらは電報。そして、こちらは荷物になります」
 テキパキと電報と荷物をわたされる。
「ありがとうございました!」
 郵便局の人は、いそいだ様子で行ってしまった。
 こんな大晦日の夜まで、仕事なんて、大変だなぁ。
 そんなことを思いつつ、わたしはドアを閉めて、受けとった電報と荷物を持って、リビングにもどる。
「なんだったんだい?」
 圭一郎おじさんが、きいてくる。
「電報と荷物がきたよ。差出人は……………………へ?」
 わたしは差出人を見て、間のぬけた声を出す。

 電報の差出人は――怪盗(かいとう)ファンタジスタ。
そして、荷物のほうは――宝(ほう)条(じょう)有栖(ありす)。

 な、なんで、この2人から!?
 みんなもさすがに、驚いた顔をしてる。
 わたしは、電報が入っている封筒から開けてみる。


こんばんは、怪盗レッド。
いい年越しを迎えているかな?
今年は色々とご縁(えん)があったからね。
メッセージを送っておこうと思ったんだ。
今年は君たちに活躍の場を譲(ゆず)ったけれど
来年は怪盗ファンタジスタの年になる。
そう宣言しておこうと思ってね。
といっても、師匠(ししょう)の頼みでもあるから
敵対するつもりはないよ。
あくまでも、怪盗としてレッドではなく
ファンタジスタの年になる、ということだ。
気を抜いたら、あっという間においていくから、そのつもりで、せいぜい気合いをいれておくんだね。
――See you★
怪盗ファンタジスタより


「まったく、ファンタジスタはまた、ふざけたことを送ってきて!
 なにが『ファンタジスタの年になる』よ!」
 わたしが、ぷんすかと怒っていると、なぜだか、ケイもお父さんたちも、意味ありげな視線をむけてくる。
 な、なに?
「まんまと乗せられているわね……」
 美華子さんが、おかしそうに笑っている。
「アスカらしいけどな」
 お父さんまで!?
「…………」
 ケイにいたっては、なにも言わずに、ただ首を横にふってるし!
 なんなの、いったい!
 もう、みんなのことはほっといて、有栖ちゃんの荷物のほうを開けるよ!

 荷物は、30センチ四方ぐらいの平べったい、大きさだ。
 包装をはがすと、平たい箱が出てくる。
 わたしは、その箱のふたを持って、そっと開けてみる。
「………………え?」
 そこに入っていたのは、額縁(がくぶち)に入った1枚の絵画だった。
 やわらかな鉛筆(えんぴつ)らしい線で描かれて、淡(あわ)く絵の具で色づけされている。
 でも、問題はそこじゃない。
「女の子と、男の子……?」
 絵画に描かれているのは、女の子と男の子だ。
 はっきりと顔を描かれず、朝日に照らされる湖(みずうみ)らしき場所に立つ2人。
 横顔の一部しか見えないけれど、湖を見つめるように立っている。
「これが、あの宝条有栖の絵画ね……って、これアスカとケイじゃない!」
 いつの間にか、美華子さんがとなりにきて、おどろいた声を上げる。
 …………へ?
「ああ、そうだろうな。
後ろ姿だが、よく雰囲気(ふんいき)をつかんでる」
「うんうん。見る人が見れば、すぐわかるよ」
 お父さんと、圭一郎おじさんも、絵を見て言う。
「え、そうなの?」
 わたしは、絵を、まじまじと見てみる。
 たしかに、言われてみれば、わたしとケイだという気がする。
 ……人からは、こんなふうに見えてるんだ、わたしとケイって。
 なんだか、くすぐったいような、照れくさいような気持ちになる。
 そういえば、ケイは?
 と思ったら、いつの間にか、わたしのとなりにいた。
 そういえば、ケイは有栖ちゃんの絵を気に入っているんだっけ。
 ケイは食い入るように、絵画を見つめてる。
「さすがというか、前に見た絵画より、さらに凄(すご)みが増してるわね。
……これは、相当な値段がつくわよ」
 美華子さんが、苦笑いして言う。
「え? 相当な値段って、どのくらい?」
 そういえば、前に有栖ちゃんの絵をケイと見に行ったときは、ものすごく大きな絵画が、1000万円だったよね……。
 でも、これはこんなに小さいサイズだし、たいした値段じゃ……。
「そうね、150万ってところかしら」
「そ、そんなに高いの!?」
 美華子さんの答えに、わたしは思わず大きな声を出す。
 ケイを見ると、美華子さんに同意するように、うなずき返される。
 ちょ、ちょっと……有栖ちゃん!
 なんで、そんな高価なものを送ってきたの!?
 もちろん、今までに、それ以上の高価な美術品を盗んだこともあるけど、それは全部、本来の持ち主に返してる。
 だけど、この絵は、わたしたちに送られてきた以上……「くれる」ってことだよね?

「ど、どうしよう?
 そんなに高いもの、返すべきかな?」
 わたしは、あまりの金額をきいて、まるで考えがまとまらない。
 そんなわたしを見て、美華子さんが言う。
「それは、有栖ちゃんが、かわいそうよ」
「かわいそう?」
 意外な言葉に、わたしは首をかしげる。
「画家は、あなたたちに、自分の絵を贈(おく)りたかっただけよ。
高価だから、贈りたかったわけじゃない。
大切にしてもらえれば、それだけで喜ぶわ」
 わたしは、有栖ちゃんのことを思いうかべる。
 別れぎわに手をふってくれる、有栖ちゃん。
なんだかんだ言いながらも、わたしの心配をしてくれる有栖ちゃん。
 ――そっか。
「高価な絵画」じゃなくて、「有栖ちゃんからの贈り物」だと思えばいいんだ。
 うん。
それなら素直に、受けとれる。
「ありがとう、美華子さん。
大切に部屋に飾ることにするよ」
「それがいいわ。
どっちにしろ、この絵画を世に出したら、描かれたモデルはだれだって話題になって、めんどうなことになるわよ」
 そ、それはちょっと……。
 美華子さんにおどかされて、わたしは身をすくめる。
 あなたたちと有栖ちゃんとの関係は?なんてきかれても、説明にこまるし。
「おーい、そろそろ鍋を雑炊(ぞうすい)にするぞ。食べるか?」
「もちろん、食べるっ!」
 お父さんの声に、わたしは有栖ちゃんの絵画を丁寧(ていねい)にしまってから、テーブルにむかう。
 そうして、わたしたち家族5人の年末は、すぎていく。

 午後11時58分。
 わたしはそばをすすりつつ、テレビの年越し番組を見ている。
 また食べてるって?
 年越しそばは、別腹(べつばら)だからね!
 美華子さんは、お酒を飲んだら眠くなってしまったらしくて、横になってる。
 お父さんと圭一郎おじさんは、となりの部屋で、2人でまだお酒を飲んでるみたい。
 テレビの中で、カウントダウンが始まる。
『5、4、3、2、1……パンッ』
 テレビの中で、クラッカーが鳴らされる。
新年だ!
わたしは、となりにすわるケイを見る。
「あけましておめでとう、ケイ」
「あけましておめでとう」
 静かにテレビを見ていたケイも、あいさつを返してくる。
 ケイは、年越しそばを食べていない。
もう、お腹がいっぱいなんだって。
「今年も、レッドともども、よろしくね!」
「……ああ、とうぜんだ」
 ケイの答えに、わたしはクスリと笑う。
「そういえば、明日の朝、実(み)咲(さき)たちといっしょに初詣(はつもうで)に行くんだけど、ケイもいっしょに行かない?」
 実咲や優月(ゆづき)、水夏(みなつ)たちと、近くの神社に行こうねって約束をしてるんだ。
「ぼくはいい。朝は、無理だ」
 ケイが、そっけなく答える。
 まあ、そう言うと思ったけど。
 午前中の、ゾンビ状態のケイを、初詣の人混みの中を連れまわすのは、さすがにどうかと思うし。
「なら、午後に2人で行こうよ。
それならケイも目が覚めてるでしょ」
「アスカは2回も初詣に行くつもりか?」
「ご利益(りやく)が2回分あるかもしれないよ」
「ご利益は、そういうものじゃないと思うが……
まあわかった。
どうせ断っても、連れて行くんだろ」
 ケイは、あきらめたようにうなずく。
「そのとおり!
 怪盗レッドとしての初詣も、2人でしとかないとね!!」

 今年も、きっと大きな事件が待ち受けてると思う。
 だから、きっちり神様に、わたしたちを見守ってもらえるように、お願いしとかないと。
 今年の怪盗レッドも、がんばらなくっちゃね!

第2話へつづく


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