怪盗レッド スペシャル 第9話 宝条有栖のちょっとした日常[下]
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怪盗レッド スペシャル 第9話 宝条有栖のちょっとした日常[下]

今回は、前回にひきつづき、天才小学生画家・宝条有栖ちゃんのお話!
画家であり、泥棒組織「ラドロ」の本部にも出入りをし、幹部同然のあつかいを受けている有栖ちゃん。
ある日、ラドロを追い出されるほど、たちの悪い泥棒の一味が、クラスメイトの西園寺さんの家を狙っていることを知って……!?

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   *****

 ――深夜の1時。
 わたくしは、西園寺家のお屋敷(やしき)の庭の木のかげにかくれていた。
 サクスの調査とわたくしの分析により、問題の泥棒グループが西園寺家に忍(しの)びこむのが、今日の深夜だとわかったから。
ここで、待ちぶせしているというわけ。
 そのサクスだけれど、いったいどこにいるのか……。
「――やつらがきた。6人だ」
 突然、すぐうしろからサクスの声が聞こえて、わたくしは身をかたくする。
 ジロリとサクスを見ると、
「なんだ?」
 いぶかしげに、サクスが言う。
 あのね……おどろくのよ! わたくしでも!
 こんな真夜中の真っ暗なところで、とつぜん音も立てずにうしろに立たれたら!
 と言いたいのだけれど、口がさけても言ってやらないわ。
「……なんでもないわ。それでやつらの動きは、予想通りかしら?」
「有栖の読み通りだ。やつらは西園寺家の使用人の1人と通じている」
「でしょうね。ボンクラ泥棒なんかに、この家のセキュリティを、突破できるとは思えないわ」
 そういうわたくしは、サクスにかかえられて、ここまで入ってきたけれどね。
 警備員は常時5人ほどと、お屋敷の広さにくらべて少ない。
けれど、赤外線センサーや、暗闇(くらやみ)でも感知が可能な顔認証システム搭載(とうさい)のカメラなど、異常事態を知らせるシステムは、かなりのものがしかけられている。
 ひとたびこのシステムに引っかかれば、5分もたたずに警備員が、外から山ほどやってくるというわけ。
 そんな西園寺家のお屋敷に、腕も知恵もたいしたことがない泥棒が、正攻法で忍びこめるはずがないわ。
 なのに、西園寺家へ忍びこむことを誘われていた男は、「やつらは、やけに自信ありげだった」と言っていた。
 なにか裏があるのは、まちがいない。
 それで調べてみたら、西園寺家に5年ほど勤めている使用人の男が、裏であやしい動きをしていたのよね。
 セキュリティ管理の場所まで把握(はあく)しているということは……西園寺家につかえるようになったときから、裏切るつもりだったのかもしれないわ。
 まったく。
人間っていうのは、どうしてこう、どうしようもないところがあるのかしらね。
「動くか?」
 サクスが、わたくしにきいてくる。
 当然、答えは決まっているわ。
「――たたきつぶすわ」

   *****

 暗闇の中、西園寺家の勝手口近くに、男が1人立っている。
 逃げ場所の見張り役なのだろう。
 あたりをキョロキョロ見回しながら、落ちつかない様子でいる。
 このあたりに設置してある赤外線センサーは、すでに機能を切ってあるみたいね。
 ここまでのシステムは通常通りだったから、全部のシステムを落としているわけではなさそうだわ。
 まあ、そんなことをしたら、すぐに異変に気づかれてしまうから、当然だけれど。
 そういうところは、悪知恵が働くのね。
「サクス」
 わたくしが声をかけるのと同時に、サクスがわたくしの横から姿を消した。
次の瞬間、サクスが男の背後におりたつ。
 ストン。
 わたくしは、目で追えなかったけれど、どうやら首筋に手刀を落としたようね。
 男の体が、声もなくグラリとゆれて、地面に倒れこむ。
 あれでは、だれになにをされたのかも気づかなかったでしょうね。
 さあ、次よ。
 わたくしは、またサクスの両腕にかかえられて、次のポイントにむかう。
 勝手口から、屋敷のほうにむかうと、また1人、男が見張りに立っている。
 さっきと同じ手順で、サクスが見張りをしている男を気絶(きぜつ)させる。
「今、4人の気配が、屋敷の中に入った」
 サクスがつげる。
「そう。それにしても、便利よね、気配がよめるとかいうの。人の居場所もわかるんでしょ」
 わたくしには、当然そんなものはよめない。
 というか、よめるほうが異常よね。
 怪盗レッドのイノシシ担当……じゃなくて、実働担当のアスカも、さらりとやってのけていたけど。
 あれは野性のカンなのかしら?
「なれれば、できるようになる」
 サクスは、なんでもないことのように言う。
 で・き・ま・せ・んー!
 まったく。
自分が一般人とかけはなれてるってことを、もう少し自覚してほしいわ。
「とにかく、やつらが屋敷内で仕事を始める前に、つぶすわよ」
「了解(りょうかい)した」
 サクスが、わたくしをかかえて、暗闇の中を進む。
 すると、すぐに屋敷が見えてくる。
その横側に回りこみ、やつらが忍びこんだルートにたどりつく。
「センサーのついた窓も、そのシステム自体を切ってしまえば警報器はならない……か。つくづく内部の裏切りとは、めんどうなものね。信じられるものが、どんどん減ってしまう」
「この窓のむこうに、やつらがいる」
「いいわ。このまま行って」
 サクスが、窓を飛びこえる。
 すると、ろう下を移動しようとしていた、あやしい男たちが、ギョッとした顔でわたくしたちを見る。
「な――!?」
 声をあげようとした男に、サクスが瞬(しゅん)時(じ)に、麻(ま)酔(すい)針(ばり)を刺(さ)してだまらせる。
「真夜中に人の家で大声をあげようなんて、はしたないわよ」
 ストン。
と、わたくしはサクスの腕からすべりおり、泥棒グループに話しかける。
 1人は倒したから、残り3人。
あ、裏切者の使用人も数えれば、4人ね。
「なにものだ、てめえら」
 声をおさえて、男の1人が言ってくる。
 様子からして、こいつがリーダーみたいね。
「この状況で言うことかしら? そのセリフ ……サクス」
 わたくしの言葉が終わる前に、サクスが動き出す。
「がっ」
「はうっ」
「ぐっ」
 体術と麻酔針で、あっという間にリーダーらしき男以外の3人を眠らせる。
 あっけなさすぎて、ため息が出そう。
 ものの数にも入らない、とはこのことね。
「……これでわかったでしょ。わたくしたちは、あなたたちの敵よ。って、お知らせするのがおそかったかしら?」
「く、くそがっ!」
 最後に残ったリーダーの男が、ふところから拳(けん)銃(じゅう)をとりだして、わたくしにむける。
 あらあら。
 そんなものまで用意していたの。
 泥棒にそんなものが必要?
 いったいここで、なにをするつもりだったのかしら?
 わたくしは、自然と自分の目がするどくなるのを感じる。
「……ねえ」
 わたくしは、拳銃をかまえた男のほうに、一歩近づく。
「わたくしは、泥棒にもプライドがあるってことを、知ってるわ。でもね……あなたの仕事からプライドを感じない」
 拳銃の銃口がむけられているのに、一歩一歩近づいてくるわたくしに、男は気(け)おされながらも、いきがる。
「プ、プライドだと? そんなもの、あろうがなかろうが、犯罪者に違いはねえだろうが」
 男の拳銃を持つ手が、カタカタとふるえている。
 わたくしと拳銃との距離は、1メートル。
 いつ撃ってきてもおかしくないけれど、恐怖はまったく感じなかった。
「もちろん、プライドがあろうとなかろうと、あなたがたは犯罪者よ。世の中からすれば、最低なやつらだってことには、まちがいない。
だからこそ、よ。プライドすら持たないやつを、わたくしは、まったく描きたくならないわ」
 わたくしは、やっと立ち止まる。
 鼻先に拳銃がある。
「し……知ったことか!」
 男がさけびながら、ひきがねを引こうとした瞬間――
「がはっ……」
 サクスの麻酔針を受けて、男はそのまま床に倒れこむ。
「……無茶をする」
 サクスが顔をしかめて、わたくしを見ている。
「信用していたもの」
 もちろんサクスなら、わたくしに傷ひとつつけることなく、対処できるでしょう。
 それぐらいの見る目は、あるつもりだわ。
「こいつらはロープでしばって、まとめておけばいいでしょう。あとはレッドのやり方でもまねて、匿名(とくめい)で警察をよんでおけばいいわね。運がよければ、これもレッドのしわざだと思われるかもしれないわ」
「レッドに文句を言われるぞ」
「大丈夫よ。警察が勝手に誤解(ごかい)するのは、わたくしはあずかり知らないことだもの」
 わたくしの言葉に、サクスが「とんでもないやつだ」という目をむけてくる。
 あら。
 こんなにかよわい相棒に、そんな目をむけるなんて、ショックだわ。

   *****

 次の日の朝。
 いつも通り、わたくしは学校にむかう。
 校門を通りすぎたあたりで――
「有栖ちゃん!」
 西園寺さんが、走ってくる。
 あわててころばないか、心配だわ。
「ごきげんよう」
 わたくしが、西園寺さんにあいさつすると、
「ごきげんよう」
 西園寺さんも、今気づいたとばかりにほほ笑みを返してくる。
他人行儀(たにんぎょうぎ)なあいさつだけれど、これが、このお嬢(じょう)様(さま)学校で定められている「上品なあいさつ」というだけのこと。
「それで、なにかあったの?」
 わたくしは、単刀直入(たんとうちょくにゅう)に西園寺さんにきく。
「それがね! 昨日、わたくしの家に泥棒が入ったんだよ!」
 西園寺さんが大声で言うものだから、まわりの人たちが、おどろいた顔でわたくしたちを見ている。
「声をおさえたほうがいいわ。それで、泥棒が入って、西園寺さんは無事だったの?」
「うん! そうなの。だれかが、泥棒がうちに入ったところをつかまえてくれていたの。警察が、とつぜん家にやってきたときは、びっくりしたよ。泥棒が入ったらしいっていうから、屋敷の中を調べたら、本当に、しばられている人たちがいて……」
「それは不思議なこともあるものね」
「本当だよね。でも、警察の人によると、怪盗レッドのしわざかもしれない、って」
 どうやら、うまくいったようね。
「でも、もし、あの怪盗レッドが助けてくれたのなら、ひと目会ってみたかったかも」
「あら。西園寺さんは怪盗レッドが好きなの?」
「好きっていうか、有名だから会ってみたいって感じかな。今回みたいに、悪いやつらに狙われてる人を助けてくれるなんて、いい人っぽいし」
 西園寺さんらしい、ふわふわとした理由だわ。
 でもこれでもう、大丈夫ね。
 レッドならこう言うのかしら。
 ――「ミッション成功」って。

   *****

 学校が終わり、わたくしは、いつものように校門を出る。
 今日も、サクスがわたくしを狙う人間を片づけてから、合流する。
 そのまま、ラドロの本拠地(ほんきょち)のビルに行く。
「ボスのおじいちゃん」が、わたくしをよんでいると言われて、部屋へむかう。
 でも、おじいちゃんはまだ、この部屋にきていないみたい。
 わたくしは、わたくしの指定席になっているカウンター席にすわる。
「有栖、あの女の子に、なにも伝えなくてよかったのか? あの子のために動いたんだろう」
 サクスにしては、めずらしく、おせっかいなことを言うわね。
「……べつに。あの子がいつも通り、笑って話しかけてくるだけで、じゅうぶんな報酬(ほうしゅう)よ」
 恩を着せたかったわけじゃないわ。
 ただ、わたくしの日常を守りたかっただけ……そこに西園寺さんがいただけ、よ。
 それ以外の反響(はんきょう)は、おことわり。
「……まったく。ずいぶんと勝手なことをする、有栖よ」
 低く、するどい声が、きこえてきた。
 声がしたほうを見ると、車いすに乗った、ラドロのボスのおじいちゃんが、付きそいのボディガードといっしょに、部屋に入ってくるところだった。
「これぐらいは問題ないでしょ。ラドロの規則だってやぶってないし」
 わたくしは、まったく悪びれずに、おじいちゃんに言う。
「どうせおじいちゃんも、あの男たちが気に入らなくて、いずれ手をまわすことになっていたのでしょうし」
 あいつらのこと、おじいちゃんが手を出さずにいるとは思えないもの。
 でも、西園寺家がどうなろうと、おじいちゃんはきっと気にしない。
 だから、一足先にわたくしが、わたくしのために動いただけのことよ。
「私を相手にして、そうズケズケと言ってのける度胸と頭の回転の速さは……やはりお前をラドロの幹部にスカウトしてよかったな」
 おじいちゃんが、くちびるのはしを上げて、ニヤリと笑う。
「あら。ありがとう。お礼は、チョコレートパフェでいいわよ」
「くっくっくっ……本当にへらない口だ」
 そう言いながらも、おじいちゃんは、そばにひかえる配下に片手をふって指示を出す。
 どうやら、本当にパフェをごちそうしてくれるみたいね。
「それで? なにかいいことでもあったの? これでもわたくし、少しぐらいは怒られる覚悟(かくご)はしてきたのだけど」
 本当に、ほんの少しだけれど。
「タキオンのことで、おもしろい情報がつかめた。どうなるかはわからないが、つけいるすきにはなるだろう」
「それはそれは。これから、いそがしくなりそうね」
 使用人が、わたくしの前に、チョコレートパフェをおいていく。
 自然とほおがゆるむ。
 ここで出されるチョコレートパフェは、絶品なのよね。
 いずれレシピをききだしてやろうと思っているのだけど、なかなか明かしてくれないのが、くやしいわ。
 わたくしは、パフェをひとさじすくって、口に入れる。食べる。
 ああ…………幸せだわ。
 これだけでも、ラドロにきてよかったと思えるもの。
 ……あ、いまのは冗談よ。
 さすがに、そこまで軽い気持ちじゃないわよ。
……本当よ。
 おじいちゃんが静かだと思って目をやると、いつものように、チェス盤の前で、だまって深い思考の中にいる。
 おじいちゃんが、悪だくみ……じゃなかったわ、計画をたてるときは、いつもそう。
 まあ、だいたい毎日だけれどね。
 タキオンとの戦いは、いつラドロが劣勢(れっせい)になってもおかしくないのだから。
 それを1人で支えているのが、このおじいちゃんの頭脳。相手の動きを先読みした計画だといっていいもの。
 そうでなければ、ラドロがこんな大きな組織になる前に、タキオンにつぶされていたわ。
 だからそう。
「ま、いつものラドロね」
 これはふだんの、ラドロの風景だ。
 それも、もう少ししたら変わるかもしれないけれど。
 わたくしは、わたくしのできることをやるだけだわ。
 タキオンに世界を牛耳(ぎゅうじ)られては、こまる。
 あいつらに支配された世界では、芸術もなにも意味をなさなくなってしまう。
 あいつらの動きを阻止(そし)するために、わたくしはラドロに協力しているのだから。
 わたくしは、もうひとさじ、パフェをすくって味わう。
 これが、ラドロの日常。
 わたくしは、早く、絵を描くだけでいい生活にひたりたいのだけれどね。
 それには、まだ時間がかかりそうかしら?
 わたくしは、そっと肩をすくめた。

第10話へつづく


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