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怪盗レッド スペシャル 第3話 宇佐見桜子のメッセージ

第3話_本文

「あ~~どうしよう……」
 あたし――宇佐美桜子(うさみさくらこ)は、自分の部屋のベッドの上で、スマホの画面とにらめっこしていた。
 時間はすでに、深夜1時。
 スマホに起動しているのは、トークアプリ。
 ふだん、このトークアプリは、大学の研究室の人たちとの連絡用にときどき使っているだけ。
 そんなアプリを、あたしがこんな時間に開いているのには、理由がある。

 2週間ほど前に、あたしは、ある大事件に巻きこまれた。
 正確には大事件になりそうだった事件、というほうが近いかも。
 事件は、未然にふせげたから。
 そのとき、あたしを助けてくれたのが、マサキという少年。
 事件はふせげたから、住む世界のちがうあたしとマサキは、そのまま縁(えん)が切れる、はずだった。
 ……だけど、別れぎわにマサキは、このトークアプリの連絡先を教えてくれたんだ。
 あたしは、もう一度、スマホの画面に目を落とす。
 そこに表示されているトークは、
『登録したよ』
『そうか』
の2つだけ。
 しかも、やりとりをしたのは、事件のすぐあとのこと。
だから、もう2週間は連絡をしていないことになる。
 せっかく連絡先をくれたのに、なにもメッセージを送らないなんて……うん、さすがにどうかと、あたしでも思う。
 でも、理由があるの。
 だって、今さらあいさつするのも変だし。
今日、あったことを書くとか?
 ダメダメ!
「学校でめずらしく、クラスの女子とちょっとだけ会話ができたよ」なんて、マサキに話してどうするのよ!
 今、大学で研究してることについて書く?
 いや、そんなの送られても、マサキは、わけがわからないよね。
 ふつうの女の子だったら、トークアプリで、どんなことを送るのかな。
やっぱり、「今日こんなことがあって」とか、書くのかも。
 でも、そもそも、あたしはふつうの女の子とは言いがたい。
 友達に送る「ふつうのメッセージ」ってなんなのか、ぜんぜん知識がない。
 だって、あたしは友達がほとんどいないし、ましてや男友達なんて……。
 ……待って。マサキって、友達なの?
 一緒に事件に立ち向かったけど、それだけでは、友達とは言えない気がする。
 ふつうの友達とは、絶対、あんなことはしないだろうし。
たった数日のことだったし。
 じゃあ、あたしにとって、マサキってなんだろう? 
 そんなことをいろいろと考えてたら、なんて送ったらいいか、ますますわからなくなっちゃって……
それで2週間が経(た)っちゃったんだ。
 今さら、どんなメッセージを送っても、不自然だよね。

 ――今、マサキは何してるのかな。
 真夜中だから、ふつうなら、もう寝てる時間だけど。
 マサキなら起きてそう。
「起きてる?」
 って、きいてみたい気はする。
だけど、マサキはそんなつまらないことをあたしからきかれるために、連絡先を教えてくれたわけじゃないよね……。
「ああ、もう悩(なや)んでるのもつかれた!」
 あたしは、ベッドに寝ころがる。
 研究のことなら、いくらでも頭を悩ませていられるんだけどな。
 人に送るメッセージの内容を考えることが、こんなにつかれるなんて……。
 同じ「悩む」のでも、脳(のう)のちがう場所を使うとか?
 それはそれで、興味深いかも。
 そんなことを考えているうちに、ふと、思考が、ここのところ行きづまっていた大学での研究について、発展(はってん)していく。
「……あれ……もしかして…………そっか!」
 ふと解決策(かいけつさく)が頭に浮(う)かんで、あたしは、がばっとベッドから起きあがる。
「実験データSからここを抜(ぬ)き出して……そうすると、実験データОで、詰まっていたところが進められるわ! なんで思いつかなかったんだろう!」
 あたしは、興奮(こうふん)気味に思考をめぐらす。
「そうすると、どうなるの……あ、そういうことね! ここに実験データSが、必要になるんだわ……」
 あたしは、頭をフル回転させて、次々と論を進めていく。
「なるほど! そこからこうなって……」
 自然と口に出しながら、同時に、指も動く。
 しばらく研究について考えたところで、あたしは一息ついた。
「ふうぅ……思わぬところに、解決策があるなんてね。……あれ?」
 時計を見ると、1時間も経っている。
「いつの間にか、こんな時間になってたの。
でも、よかった。問題が解決しそうで……。
さっそく明日、教授に説明して、研究を先に進めなくっちゃ」
 あたしは、右手に持ちっぱなしだったスマホのスリープモードを解除して、画面を明るくする。
 スマホの画面には、最後に起動していた、トークアプリのマサキとのグループが開いてる……。
…………えっ?
「…………あああああっ!」
 あたしは、真夜中だということも忘れて、声を上げる。
 あわてて、口を閉じるけど、スマホの画面からは目を離(はな)せない。
 トークアプリの画面に、メッセージが2つ、増えてる。
 というか、あたしが1つめのメッセージを送っちゃってる。
 その内容は……

『SОS』

ただ、それだけ。
 しかも、送ったのは1時間も前だ。
 そして、その2分後に、マサキから返信がきてる。

『どうした
大丈夫か』

 いったい、どうしてこんなことに!?
 ……ううん、考えるまでもない。
 さっき、研究について考えている最中(さいちゅう)に、あたしの指が動いていたようなそうでないような、覚えがあるような、ないような……。
 あたし、無意識に送信ボタンを押しちゃってたの!?
 しかも、マサキが心配する返信をくれてから、もう1時間も経っていることになる。
「す、すぐに間違いだってメッセージを送らないと!」
 あたしは、あわててスマホをつかみなおす。
 ――と。
 あわてていたせいか、スマホがあたしの手から、するり、とすりぬける。

 ぽちゃん。

 あたしの手から、はじかれるように飛んだスマホが落ちた先は……
テーブルの上にあった大きなマグカップ。
その中に、スマホは、すっぽりと入りこむ。
 え、ええええっ!!
 マグカップの中には、ちょっと冷ましてから飲もうと思って、紅茶がたっぷり入っていたはず……。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って!!!」
 あたしは、いそいで紅茶の中にしずみこんでいたスマホを、マグカップの中から抜き取る。
 全体がびしょぬれになったスマホを、近くにあったタオルで、いそいでぬぐう。
 目に見える水分を、ふきとってから、スマホの画面をのぞいてみる。
「う、うそでしょ……」
 スマホの画面は、真っ暗。
 鏡を見るまでもなく、自分の顔が真っ青になってるのがわかる。
 このスマホは、お父さんが機種変更するときに、おさがりをもらった、型の古いものだ。
 家族や大学の研究室のメンバーに連絡をとるぐらいしか使わないから、それで十分だと思ってたけど……。
 防水対応じゃなかったんだ!
「お願いだから動いてよ……」
 わずかな望みをたくして、電源ボタンを押すけれど、反応はなし。
「ダ、ダメだ……どうしよう。
マサキに、あれは間違いだって、伝えなきゃいけないのに……」
『SOS』なんて、いきなり送られてきたら、誰だって心配するはずだ。
 しかも、マサキはすぐに、トークアプリのあたしのメッセージに気づいてた。
 あーっ、スマホを持ったまま、考えごとなんてするんじゃなかった……。
 でも、後悔(こうかい)したり落ちこんだりするのは、あと!
「とりあえず、今からスマホのショップに行っても……さすがに閉まってるよね……」
 深夜2時過ぎ。
 こんな時間じゃあ、24時間営業のコンビニぐらいしか開いてない。
「明日の朝一番でショップに行けば……って、明日は学校に行かなきゃダメだったんだ」
 大学の研究室に通うため、いくつかの授業を免除(めんじょ)してもらっている代わりに、テストはしっかりと受ける約束になってる。
 もし、さぼったりしたら、進級できないかも……。
 しかたない。
「学校が終わって、放課後になったら、すぐにショップに行こう!」
 それしかない。
 家族にスマホを借りるという方法も考えたけど、たとえ家族からでも、他の人のスマホから連絡をとるのは、マサキの信頼を裏切る気がする。
 そもそも警戒(けいかい)心の強いマサキが、他人のスマホからの連絡を、本物だと信じてくれるかどうか、わからないし。
「なんで勝手に動くかな、あたしの指!」
 あたしは、自分の指をうらめしく見つめてから、がっくりとうなだれる。
 マサキに心配かけちゃってるよね。
 ああもう! ……どうしてこう間が悪いのかな、あたしって。

第4話につづく

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