怪盗レッド スペシャル 第10話 初代怪盗レッドの活動記録
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怪盗レッド スペシャル 第10話 初代怪盗レッドの活動記録

今回は、アスカとケイが、父親のPC上で、初代怪盗レッドの活動記録を盗み読みするお話。

 

「ケイ、そのパソコンどうしたの?」
 土曜日の午後2時。
 わたしは、家のリビングで、ノートパソコンを使っているケイに声をかける。
 いつもは、部屋においてある自分のパソコンを使っているのに、リビングにいるし、さわっているのが、見かけないパソコンだから、気になったんだよね。
「……父さんに借りた」
 ケイが、パソコンのほうを向いたまま、こたえる。
「圭一郎(けいいちろう)おじさんから? 自分のはどうしたの?」
 わたしは、ケイとわたしがいっしょに使っている部屋のほうを見る。
「……あっちには今、べつの作業をさせてる。そのあいだに、ほかの調べものをしておきたかった」
「なるほど」
 わたしはうなずきつつも、『パソコンにべつの作業をさせてるって、どういうことだろう?』と頭の中で首をかしげる。
 まあ、でも、はじめの質問にはこたえてもらったし、あんまりケイのじゃまをするのも悪い。
 わたしは、部屋に向かおうとする。
 ――と。
「これは……!」
 ケイが、めずらしく、少しおどろいたような声を出す。
 その声が気になって、ケイのほうをふり返る。
「どうかしたの?」
「アスカ……これ」
 ケイは、自分がさわっていたおじさんのノートパソコンの画面を、わたしに見せるように、少しずらす。
 説明するより、見せたほうが早いってことかな?
 わたしはケイのそばまで行って、ノートパソコンの画面をのぞきこむ。
「なになに……このフォルダ……え、『怪盗レッド活動記録』? なにこれ、ケイがつくったの?」
「ぼくじゃない。これは……父さんのパソコンに、元から入っていたデータだ」
 ん? それってつまり……。
「初代怪盗レッドの、活動記録ってこと!?」
 わたしはびっくりして、思わず声が大きくなる。
「そういうことになる」
 ケイが、うなずく。
「で、でもさ。おじさんも不用心じゃない? こんなに簡単にフォルダが見つかるようにしておくなんて」
 パソコンの画面を見ると、フォルダの中には、ナンバーがふられたファイルが、たくさん入っている。
 まちがって、だれかに見られたりしたら大変だ。
「いや、簡単じゃなかった。見えないようになっていたフォルダを見つけて、セキュリティがかかっていたのを、ぼくがさっき、こじ開けた」
 …………へ?
「そ、それって、おじさんは隠しておいたのに、そのフォルダをケイが無理やり開けちゃったってこと?」
「そう」
 ケイは、なんでもないことのようにうなずく。
「怒られるよ」
 やさしいおじさんだけど、そんなことをしたら、さすがに怒ると思う。
「いや。父さんはいつも、『侵入されるようなセキュリティにするのが悪い』って言ってるから」
 お、おじさん……。
 それでいいの?
 いや、すごくケイとおじさんらしいけどさ。 
「父さんのセキュリティを破れたのは、これで3回目」
 ケイは、心なしか、うれしそう。
 というか、ケイでも、3回しかセキュリティを破れたことがないんだ……。
 前にケイが、『パソコンのあつかいは、まだ、父さんにかなわない』って言ってた気がしたけど……。
「……それで、これを見る?」
 ケイが、わたしにきいてくる。
「見たいけど、本当にいいのかなぁ?」
 わたしは、人のパソコンの中身を、勝手に見ちゃうことに、抵抗(ていこう)をおぼえる。
「……父さんが、絶対に見せたくないと思うなら、このファイルが入ったパソコンを、ぼくに貸したりしなかった」
 そういうものなのかな。
 おじさんについては、当然だけど、息子であるケイのほうがくわしい。
 そのケイが言うんだったら……。
 それに正直、わたしも初代怪盗レッドの活動って、どんなだったのか、気になるし。
「じゃあ、ちょっとだけ」
 わたしの言葉に、ケイがマウスを操作して、フォルダの中のファイルから、1つを選んでダブルクリックする。
 画面に、ファイルの中身がうつしだされる。

 怪盗レッド活動記録⑯ 翼(つばさ)15歳 圭一郎13歳 美華子(みかこ)10歳

 タイトルと、その次に、わたしのお父さん―翼―や、ケイのお父さんの圭一郎おじさん、そして2人の妹で、わたしたちのおばさんにあたる、美華子さんの年齢が書いてある。
 この活動をしたときの、それぞれの年齢ってことかな?
 ということは、お父さんたちがまだ、小中学生だったってことだ!
 怪盗レッドを結成したばかりのころかも。
 わたしはさらに興味をひかれて、ケイといっしょに、その記録を読みすすめていった。

 

「――圭一郎、本当にここから入るのか?」
 ぼく――圭一郎の指示に、翼兄さんが顔をしかめている。
 その気持ちもわからなくもない。
 ぼくが潜入ルートとして考えたのは、煙突(えんとつ)だからだ。
 今回、ぼくたち「怪盗レッド」が動いたのは「古い屋敷で、盗(ぬす)まれた美術品のオークションが開かれる」という情報をつかんだためだ。
 下調べで、ほぼまちがいないとはいえ、出品されるのが盗品(とうひん)だという証拠(しょうこ)はない。
 だから、その証拠をつかむために、オークション会場の屋敷に潜入(せんにゆう)する必要があった。
 そこで、ぼくが考えた潜入ポイントが、煙突だったわけだ。
 この古い屋敷は、今の家にはほとんどない煙突がついている。
 煙突は、今はもう使われてはいないと調べがついているから、潜入するにはちょうどいい。
「すすだらけに、なりそうだな……」
 どんよりした表情で、翼兄さんが言う。
 夜の12時をまわっていて、あたりは暗い。
 闇(やみ)夜(よ)にまぎれて、3人で屋敷の煙突前まで無事にやってこられた。
 問題は、ここからだ。
「翼お兄ちゃん、ファイト!」
 美華子ちゃんが、明るく翼兄さんをはげます。
「美華子、おまえなぁ……自分はここから入らなくていいから、ほっとしてるだろ」
「そんなことないよ~」
 妹の美華子ちゃんは、そっぽを向いてこたえる。
 この煙突から、中に入るのは、翼兄さんだけだ。
 ぼくには、煙突から潜入するような身体能力はないので、翼兄さん1人で煙突から入ってもらい、中から屋敷の部屋の窓を開けてくれることになっている。
 美華子ちゃんには、その間、ぼくの護衛(ごえい)として、ついていてもらうことになる。
 ……小さな女の子に守られるっていうのも、複雑だけどね。
 さすがに、これまでに何回も経験して、なれてきたけど。
「じゃあ、行ってくる。そっちも気をつけろよ」
 翼兄さんは、ため息をつきつつ、煙突の中に、するりと入っていく。
 ぼくと美華子ちゃんは、このまま待機だ。
 近くの部屋の窓までいくのに、それほど時間はかからないはずだ。
 だけど……。
 3分、5分、10分たっても、翼兄さんからの通信がこない。
「どうしたんだ? なにかあったんじゃ……」
「う~ん……翼お兄ちゃんのことだから、だれかに見つかっても大丈夫だとは思うけど」
 美華子ちゃんは、首をかしげる。
「いや。今回の作戦では、だれにも見つからないで、窓を開けてほしいんだけど……」
 そんなことを話していると、屋敷の中から、さわぎのような声がきこえてくる。
 これって、まさか……。
『おっ、圭一郎か』
 翼兄さんから、通信が入る。
「なにがあったの、兄さん」
『すまん、屋敷の中を迷ってたら、見つかった……はあっ!』
 通信機の向こうで、翼兄さんとだれかが大乱闘(だいらんとう)をくりひろげているようすが、すぐに頭に思いうかんだ。
 こっそり潜入して、盗品売買の証拠をおさえて、もどるだけのはずだったんだけど……。
 当初の計画が、くずれている。
「翼兄さん、なんで迷ったの? ルートは説明してあったはずだけど……」
『すまん! 煙突の中ですすが目に入ったから、洗面所に行こうと思ったら、あやしいヤツらとはちあわせた』
 そうか。つかわれていないから大丈夫と思っていたけど、ろくに掃除もされていないことまでは考えていなかった。

「ぼくの落ち度です。反省はあとでしますが、今は計画を組み立てなおします」
『ああ、頼む』
 ぼくは、すぐさま頭の中で、計画の修正案の構築(こうちく)をはじめる。
 ――――これはダメ、あれはリスクが高すぎる、これはいい線か……よし、これだ。
「で、どうするの? 圭一郎お兄ちゃん」
 美華子ちゃんが、ワクワクしたような表情で、ぼくにきいてくる。
 この、トラブルを楽しんでるみたいな顔は、やめてほしい。
「兄さん、きこえる?」
『ああ、きこえてるぞ』
「兄さんは、そのまま屋敷の連中を引きつけて、派手にあばれまわって。ただし、屋敷の西側からなるべく遠ざかるように移動して。気づかれないように」
『ふむ。誘導(ゆうどう)するってことだな。まかせろ。……だが、1つ問題があるな』
「なに?」
 ぼくの計画に、なにかまずい部分が、あっただろうか。
『西がどっちか、わからん』
 うっ。
「…………兄さん、窓から外は見える?」
 ぼくは頭をかかえながら、たずねる。
『ああ、見えるぞ』
「タワーがあるのが、西の方角だよ」
『わかった! 連中の相手は、まかせとけ』
 通信が切れる。
「翼お兄ちゃんらしいね」
 美華子ちゃんが、くすくす笑いながら言う。
 そして、その笑みが、すっと消えて、真剣な表情になる。
「それで、わたしたちも動くんだよね? 圭一郎お兄ちゃん」
「うん。ぼくたち2人で、盗品売買の証拠をおさえにいく」
「りょーかい! 窓の鍵はどうするの?」
 美華子ちゃんが、きいてくる。
 翼兄さんは、まだ窓の鍵を開けていないから、予定していた潜入ルートはつかえない。
「見つからないように潜入する計画だったからつかえなかったけど、今は翼兄さんが派手な誘動をしてくれている。出る音を最小限におさえて、窓ガラスを割って潜入する」
「わかったよ! それならまかせて。潜入するのによさそうな窓はこっちだよね」
美華子ちゃんは、さっそく動きだす。
 翼兄さんとちがって、美華子ちゃんは屋敷の見取り図が、頭に入っているみたいだ。
 本当なら、打ち合わせのときに翼兄さんもきいていたんだから、覚えているはずなんだけど……。
 そのまま、ぼくと美華子ちゃんは、翼兄さんのおかげで、すかすかになった警備の穴をついて、盗品売買の証拠の品を1つ盗んで、証拠写真を撮り、屋敷を脱出する。
 翼兄さんは、少しおくれて、ぼくらと合流した。
 当然のように無傷なのがすごい。
「あとは、この証拠を、警察に届ければいいんだな」
 翼兄さんが、満足げに言う。
「怪盗レッドの名前でね!」
 美華子ちゃんも、うれしそうだ。
「べつに、名乗らなくてもいいと思うんだけど……」
「「それはダメ(だ)!」」
 翼兄さんと美華子ちゃんが、声をそろえて言うので、ぼくはあきらめる。
 この2人にとっては、「怪盗レッド」の名前を使うのも、重要なことらしい。

 その後、盗品と証拠の写真などを「怪盗レッド」の名で、警察に届けると、警察は、うたがいつつも屋敷を調べるために動きだし、盗品売買にかかわった者たちが、次々と逮捕された。
 ――以上が、今回の怪盗レッドの活動の記録である。

 

「わあぁ! ……お父さんたちって、こんなふうに怪盗レッドの仕事をしてたんだぁ」
 わたしは記録を読むというかたちでだけど、初めて知った、初代怪盗レッドの活躍(かつやく)ぶりに、興奮(こうふん)する。
「それに、圭一郎おじさんも、現場までいってたんだね。はじめて知ったよ!」
「父さんたちのころは、通信が、まだ短い距離でしか送れなかったんだと思う。それに、距離が長くなると、それだけ盗み聞きされるおそれが高まるから」
「そうなんだ」
 技術が進歩した今、わたしたちは恵まれてるってことなのかも。
 そのぶん、お父さんたちは、わたしたちよりも1人多い、3人組だったわけだけどね。
「でも、お父さん、屋敷の見取り図を覚えてないなんて、わたしのことをとやかく言えないよ。さすがにわたしだって、いつも覚えるようにしてるし」
「それでも計画が中断にならない、父さんの計画を見直す判断力や、翼おじさんの身体能力の高さには、目を見張るものがある」
「だね。うちのお父さん、そのころから強そうだもんなぁ」
 当時のお父さんは、今のわたしと、年齢はそんなに変わらない。
 だけど、わたしより、そのころのお父さんのほうが強かったんだと思う。
「ねえねえ、ケイ。ほかの記録は?」
「ああ、見てみるか……ん?」
 ケイが、別のファイルを開こうとして、まゆをひそめる。
 ピ―――。
 とつぜん、パソコンから警告音のようなものが鳴り、ケイはなにも操作していないのに、さっきまで開いていたフォルダが閉じて、デスクトップ上から消えてしまう。
 な、なにごと!?
「なに、どうしたの、ケイ!?」
 わたしはびっくりして、ケイにきく。
「…………やられた」
 ケイは、パソコンを操作していた手を止めて、つぶやく。
「え?」
「父さんのしかけたワナだ。最初に、ぼくでもギリギリ破れるくらいのセキュリティを解除させて、安心させたんだ。それで、2つめのファイルを開こうとすると、フォルダごと、もっと強固なセキュリティが再設定されるようになっていた。今度は、びくともしない」
「それって、わたしたちがファイルを読むことまで、おじさんが予想してたってこと?」
「そうなる。父さんに、してやられた」
 ケイは、くやしそうに言う。
 うーん。
 さすがは、初代怪盗レッドだよ。
 ケイの裏をかくなんて。
 でも、ほんの少しだけど、初代怪盗レッドのことを知ることができて、わたしはうれしかったけどね。
 おじさんも、きっと意地悪でこんなことをしたんじゃなくて、自分たちの活動の記録を、ちょっとだけ、わたしとケイに見せたかったんじゃないかな。
 だって、ケイだって、くやしそうでいて、おじさんに挑(いど)めたことを、どこか楽しんでいたように見えるし。
 それにしても、お父さんたち初代怪盗レッドだって、ぜんぜん失敗がなかったわけじゃないんだね。
 ちょっと、ホッとしちゃったかも。
 わたしたち2代目怪盗レッドも、これからもっともっと、成長しなくっちゃ。
「がんばろうね、ケイ」
 わたしがケイに声をかけると、ケイは一瞬、けげんそうな顔をする。
 だけど、すぐにわたしの言った意味を理解したらしい。
「ああ、当然だ」
 ケイが、深くうなずいた。

第11話へつづく

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