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怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 4.翼の秘密の場所

累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読み連載。

4.翼の秘密の場所

 昼休み。
「……じゃあ、いこうか」
「うん」
 お昼ご飯に、父さん特製のお弁当を食べたあと、僕は、緊張でガチガチになった黄瀬さんといっしょに、教室を出た。
 翼先輩のいる3年生の教室は、3階にある。
 1年生は1階で、2階は職員室や音楽室、2年生の教室となっている。
 階段を上っていきながら、そういえば、僕から翼先輩の教室をたずねるのは、緑谷先輩の事件以来のことだと思い出す。
 あのときは、緊急事態だと思って意識もしていなかったけれど、やはり1年生が3年生の教室にいくのは、僕でも、いくらか抵抗がある。
 翼先輩のほうは、あいかわらず、放課後になると僕のクラスに顔を見せる。
 家にも来ているんだから、わざわざ教室にまで来なくていいんじゃないかと言ったのだけど、「それとこれとはべつだ」と、翼先輩はゆずらないのであきらめた。
「……紅月先輩、話をきいてくれるかな……」
 黄瀬さんは、階段をのぼりながら、不安そうな表情をしている。
「翼先輩なら、まるで話をきかないなんてことはないよ。黄瀬さんだって知ってるはずでしょ。それに、もしいっしょにいけない理由があれば、ちゃんと説明すると思うよ」
「そうだよね。紅月先輩は誠実そうだし」
 誠実というよりは、ウソをつくのが下手なだけ、という気もするけど。
「あれ? 藤白くん。紅月先輩のこと、つ、翼先輩って呼んでるの!?」
 黄瀬さんが、いきおいよく、僕につめよってくる。
 ここ階段だから! あぶないってば!
 僕は黄瀬さんを落ちつかせて、階段途中の踊り場で立ち止まる。
 こうなると、説明しないわけにはいかないけど……。
「ええと……。翼先輩がそう呼べって、しつこいから……」
 本当は、自分も同じ「紅月」の苗字だとわかったので、「紅月先輩」と呼ぶのも変な気がして、「翼先輩」と呼ぶことにしただけなんだけど……それを説明するわけにはいかない。
 ちなみに、翼先輩からは「翼兄さん」という案が出されたけど、即、却下した。
 そんな、関係がばれるような呼び方が、人前でできるわけがないし、そもそも僕の気持ちの整理はまだついてない。
「そうなんだ……いいなぁ」
 黄瀬さんが、ぼそりとつぶやく。
 僕は黄瀬さんの声はきこえなかったふりをして、そのまま階段をのぼって、3階にたどりつく。
 翼先輩の教室は……ここか。
 3年1組。3年生の教室しかないから、すぐに見つかる。
 ドアの隙間から教室をのぞくと、3年生がまだお昼を食べていたり、数人で集まって話していたりして、にぎやかなのは1年生の教室と変わらない。
 さすがに、みんな雰囲気がおとなっぽいけどね。
 教室を見まわすと、窓ぎわに数人の男子が集まっていて、話をしている中に翼先輩の姿があった。
 ここから声をかけるのも目立つし、ずかずかと教室に入っていくのも、気が引ける。
 呼びだしてもらうか。
 僕はそう考えて、ドアの近くの席で話をしていた、女子の先輩に声をかけた。
 そのとたん、翼先輩が、野生動物のような身のこなしで、パッとこっちを向いた。
 かと思うと、瞬間移動のようなすばやさで、僕たちのいるドアの前にやってくる。
 あまりの動きの速さに、教室中があっけにとられている中、翼先輩だけは平然とした様子で、
「よくきたな、圭一郎。どんな用だ?」
 なんで、いちいち、こんなに注目を集めるんだ、この兄は……。
 僕は頭をかかえたい気持ちになったけど、いまはそうしている場合じゃない。
 僕は声をかけた女子の先輩に、ひと言謝る。
「……すみません、先輩。お願いしようと思っていたことが、必要なくなりました」
「え、ええ……そうみたいね」
 女子の先輩は、苦笑いしている。
 教室全体も、「紅月だから、しょうがないな」みたいな雰囲気で、視線がすぐに散る。
 翼先輩は、クラスでどういうあつかいを受けているんだろう。
 珍獣、とかだろうか。
 興味を持ったけれど、いまは話のほうが先だ。
 僕は、翼先輩に話しかける。
「あの、話したいことがあるんですが……」
「圭一郎から誘ってくれるだなんて……もちろんいいに決まってるっ!」
 翼先輩は、当然だと、がっしりと拳を固める。
 そんな嬉し泣きしそうな顔をしなくてもいいだろう、と僕は心の中だけでつっこんでおく。
「おっ、きみもいたのか。気づくのがおくれてすまない。たしか、圭一郎と同じクラスの黄瀬さんだったな」
 翼先輩が、僕のうしろにかくれるようにいた黄瀬さんに、ようやく気づく。
「は、はい!」
 名前を覚えてもらっていたことが嬉しいのか、黄瀬さんが声をうわずらせる。
「それじゃあ、いこうか」
 翼先輩は教室を出ると、ろう下をまっすぐに歩いていって、階段をのぼっていく。
 3階は、校舎の最上階だ。
「どこにいくんですか? ここは最上階のはずですけど」
「最上階の上にも、場所はあるだろう」
 翼先輩は、上を指さす。この3階の上にあるのは……。
「また屋上ですか。屋上は、生徒は出入り禁止のはずですが」
「ところが、ここに鍵があるんだな」
 翼先輩はじゃらりと、鍵を僕と黄瀬さんに見せる。
「どうして、そんなものを……」
「昼寝したりするのに、気持ちいいんだよ。別に、悪いことには使ってないさ」
 翼先輩は悪びれもせずに言う。
 本当にこの人は……。
 屋上のドアの前までいくと、翼先輩が鍵を使ってドアを開ける。
   ガチャリ
 翼先輩につづいて屋上に出ると、ふきこんでくる心地いい風に、目を細める。
 高い金網にかこまれているから、景色がすごくいいわけではないけれど、それでも空を見上げられるのは、爽快だ。
 黄瀬さんも、となりで「うわぁ」と感嘆の声をあげてる。
「それで、なんの話なんだ?」
 翼先輩が、あらためてきいてくる。
「じつは、今度の日曜日に遊びにいかないか、という誘いなんですが……」
 ここからは、翼先輩の反応を見ながら、話を進める必要がある。
「それだけか? てっきり、なにか話しにくいことがあるのかと思って、ここに連れてきたんだが」
 さすが、勘がするどい。
 どうして屋上に連れてきたのかと思ったけれど、そういう理由だったのか。
 でも、たしかに僕と黄瀬さんにとっても、人がいないところで話せるのは、都合がいい。
 翼先輩は、なにかと注目を集める人だから、ろう下で立ち話をしたりしたら、まわりに聞かれていたはずだ。
 いくら黄瀬さんがクラス委員でも、人前で、3年生をデートに誘う度胸はないだろう。
「僕だけじゃなくて、黄瀬さんもいっしょに、なんですけど」
 一番のポイントを、翼先輩に伝える。
 どういう反応をする?
 僕が内心で身がまえていると、翼先輩はあっさりと答える。
「彼女もいっしょか。べつにかまわないが、どこにいくんだ?」
「あ、あの! 遊園地の割引券があるので、ゆ、遊園地にいきませんか?」
 黄瀬さんが、覚悟を決めたという表情で、翼先輩に向かって身を乗りだす。
 まるで、バンジージャンプでも飛ぶみたいだ。
「遊園地か。おもしろそうだな。いいぞ」
 翼先輩は、少しも考えることなく、オーケーする。
 ………………まあ、心のどこかではそんな気はしていた。
 翼先輩なら、とくに深い考えもなしに、遊びにいくことに同意しそうだって。
 そもそも、誘いを断るところが想像しにくいし、そんなことがあったら、なにか不都合なことがあるのかと、心配になるくらいだ。
 ともかく、これでひと安心か。
 あとは当日、僕は黄瀬さんのお供として、ついていけばいいだけだ。
 そう考えていたとき、屋上のドアが重そうな音をたてて開く。
「――翼くん。また勝手に屋上を使ってるわね」
 入ってきたのは……。
 み、緑谷先輩!?
 ドキン、と僕の心臓が跳ねあがる。
 きちんと着こなした制服姿に、風でゆれる髪の毛を、右手でおさえている。
 あいかわらず、すごく素敵な人だ。
「げっ、緑谷。どうしてここに!?」
 翼先輩は、身をのけぞらせる。
「あなたたちが階段をのぼっていくのを、見かけたのよ。ここは生徒の立ち入り禁止よ。生徒会役員としては、見逃せないでしょ」
 緑谷先輩は、翼先輩をジロリとにらむ。
「ほら、鍵をだして」
 緑谷先輩が、翼先輩に向けて、手を差しだす。
「はあ……せっかく作った合鍵なんだがなぁ」
 翼先輩は肩を落として、緑谷先輩に屋上の鍵をわたす。
 翼先輩なら、合鍵なんて作らなくても、屋上の鍵を開けることぐらい、どうということはないけれど、そうするとややこしいことになるからだろう。
「それで?」
 緑谷先輩は、翼先輩をにらむ。
「な、なんだ? もうなにもないぞ」
 翼先輩は、両手を上げて、ひらひらとさせる。
「ないことないでしょ。いま、なにか話してたじゃない…………」
 緑谷先輩が言って翼先輩に近づいていくと、なにかを耳打ちする。
 な、なにを小声で話してるんだろうか。
 2人の親しそうな様子が、気になってしかたがない。
「……ちょ、ちょっと待て、緑谷! それは職権乱用じゃないのか!?」
 翼先輩が、あわてたように声を上げる。
「あら。翼くんが、そんな言葉を知ってるなんて思わなかったわ。……それで、どうかしら?」
 緑谷先輩が、言いながら、ちらりと、僕と黄瀬さんのほうを見る。
 翼先輩のことだし、緑谷先輩に、なにかろくでもない弱みでも、つかまれているんだろう。
 というか、いま、この状態が弱みだとも言えるし。
「……あーええと、圭一郎、黄瀬さん」

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 翼先輩が、申し訳なさそうな顔で、僕と黄瀬さんのほうを向く。
「悪いが、今週の遊園地、緑谷もいっしょでもかまわないか?」
 …………は? 僕は、一瞬かたまる。
 緑谷先輩が? いや、僕としては喜ぶべきなのか?
 で、でも話が急すぎて、どう返事をしたらいいのか、言葉がまとまらない。
「ど、どうして緑谷先輩がいっしょにきたいなんて……」
「だって、翼くんだけだと、1年生の2人が心配だから。わたしもついていきます」
 緑谷先輩は、にっこりと笑って言う。
 その笑顔に、有無を言わさぬ迫力を感じるけど、気のせいだろうか。
 それよりなにより、緑谷先輩の笑顔が、まぶしすぎる。
「……い、いいかな、黄瀬さん?」
 僕はくらくらとしたけれど、なんとか気を取り直して、黄瀬さんにきく。
 黄瀬さんは一瞬だけ、複雑そうな表情になった気がしたけれど、すぐに笑顔になる。
「もちろん、いいですよ」
 いまの表情は、気のせいだったかな。
 一瞬のことだったから、僕の見まちがいかもしれない。
 それにしても、今度の日曜日。どうなってしまうんだろうか……。

<第5章へつづく>

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