怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 9.小さな尾行者
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怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 9.小さな尾行者

累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読み連載。

9.小さな尾行者

 電車をおりて駅から出ると、もう日が落ちていた。
 足早に駅に出入りする人たちが、多くいる。
 ここからは、緑谷先輩と黄瀬さん、翼先輩と僕とで、方向が分かれてしまう。
「家まで送っていかなくて、大丈夫か?」
 翼先輩が、緑谷先輩と黄瀬さんにたずねる。
「大丈夫よ。人どおりもだいぶあるし、家にも連絡してあるから。じゃあね。圭一郎くん、翼くん」
「わたしも大丈夫です。今日はいっしょにいけて、うれしかったし楽しかったです!」
 緑谷先輩と黄瀬さんが、それぞれ答える。
「お礼を言うのは、こっちだよ。今日は誘ってくれてありがとう、黄瀬さん」
「そうだな。また遊びにいこうぜ」
 僕と翼先輩が言うと、黄瀬さんはうれしそうに頬をほころばせる。
「また明日ね。……あ、翼くんは、このあと圭一郎くんを無理に連れまわしたりしないのよ」
 緑谷先輩が、ジロリと翼先輩をにらむ。
「しないっての!」
 翼先輩が言って、僕たちは笑う。
 最後にもう一度あいさつを交わして、僕たちは二手に分かれて、反対方向に歩きだす。
 駅から50メートルほどはなれたところで、不意に翼先輩が立ち止まった。
「翼先輩?」
 駅からはなれたので、あたりの人どおりは、だいぶ減っている。
「…………そろそろ出てきたらどうだ?」
 翼先輩が、急に路地のかげに向けて言う。
「え? 翼先輩、いったいなにを……」
 僕は驚いて、翼先輩が視線を向けているほうを見る。
 だれかいるのか?
 僕は思わず身がまえる。
 身がまえたって、なにかできるわけじゃないけど、とっさのことだ。
「あれ~、やっぱり翼お兄ちゃんには、ばれちゃってたか」
 こ、この声って……。
「美華子ちゃん!?」
 僕は声を上げる。
 ひょっこり、と路地から姿を見せたのは、美華子ちゃんでまちがいない。
 棒つきのキャンディーをなめながら、いつものように、ひょうひょうとした様子で、僕たちのほうにやってくる。
「まったく。ずっと尾行してただろ」
 翼先輩が、あきれたように言う。
「もしかして、朝から?」
 僕は驚きながら、きく。
「うん、そうだよ」
 美華子ちゃんは、あたりまえのようにうなずく。
「なんのためにそんなことを?」
 僕は理由がわからず、疑問をぶつける。
「そりゃあ、将来のお姉ちゃんになる人かもしれないんだから、気になるでしょ」
「お姉……って、気が早すぎる……っていうか、そんなことないから!」
 さらりと言う美華子ちゃんに、僕は思わず大きな声を出す。
「そう?」
 美華子ちゃんは、首をかしげる。
 ……なにを考えているんだよ、美華子ちゃん。
 そこまで考えて、自分の失言に気がついた。
 べつに美華子ちゃんの義理のお姉ちゃんは、僕の結婚相手だけじゃない。
 翼先輩の結婚相手も、当然ながら義理のお姉ちゃんだ。つまり、黄瀬さん。
 それなのに、僕は自分のことだけを想像して、答えてしまった。
 頬がカッと熱くなる。
「まあ、いいじゃないか。美華子の尾行には気がついてたが、べつに問題ないだろうってほうっておいたんだし」
 翼先輩は、なんでもないことのように言う。
 あいかわらず、翼先輩は大ざっぱすぎる。
 その大ざっぱのおかげか、さっきの僕の失言には、2人ともつっこんでこないけど。
「ところで、お兄ちゃんたち。1つ報告があるんだけど」
 美華子ちゃんが、急に真面目な顔になる。
「なんだ?」
 翼先輩も、真剣な顔で応じる。
 僕も気になって、思考を切りかえる。
「お兄ちゃんたちを尾行してたときに、ちょっと変なやつらを見かけたんだよね」
「おれたちを狙っていたのか?」
 翼先輩が目を細くする。
「ううん。偶然そこにいただけだと思うよ。でも、あまり見かけない、ふつうじゃない感じのやつらだったな。その中の1人に、右腕にナイフで切られたような古傷があってね。傷跡だけなら、なにかの事件の被害者ってこともあり得るけど、そいつは、わざわざ傷の近くに入れ墨を入れてて、自慢してる感じだったよ」
 美華子ちゃんは、思い出す顔をしながら答える。
 観察眼の鋭い美華子ちゃんの話だから、ただ「怪しい」というだけじゃなかったんだろう。
 僕ではわからないけれど、わざわざ報告するぐらいだから、雰囲気や立ち振る舞いに、気になるところがあったんだと思う。
「そうか……」
 翼先輩は、少し考えこむ顔になる。
「だけど、お兄ちゃんたちのデートを尾行することのほうが、重要だったからね! 途中で道が分かれたから、それからは見てないよ」
 美華子ちゃんは、あっさりと言う。

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 僕は苦笑いしつつも、ちょっとだけその怪しいやつらというのが、心に引っかかる。
 でも、考えるだけムダか。
 世の中では、毎日のように犯罪が起きている。
「犯罪を起こしそうなやつら」、なんていう疑いだけで、気にしていたら、きりがない。
 そう考えて、僕は美華子ちゃんの話を、頭のすみに追いやった。

<第10章へつづく>

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