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盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 6.あこがれの先輩と

累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読み連載。

6.あこがれの先輩と

 遊園地の最寄りの駅で下車して、僕たちは歩いていく。
 20分ほど歩くと、遊園地に着くはずだ。
 それにしても……。
 僕は歩きながら、肩をぐるっとまわす。
 まさか、電車であんなことになるなんて……。
 僕はさっきまで乗っていた、電車でのことを思いかえす。

 電車の中は、日曜日ということもあって、そこそこ混みあっていた。
 それで、たまたま空いた席に、緑谷先輩がすわったのだけど、そのあとにとなりの席が空いたのが問題だった。
「藤白くん、どうぞ」
 と言われてしまったのだ。
 空いたのだから、連れがとなりにすわるのも、当然の成り行きだ。
 そうなると、当然ながら、電車がゆれるたびに、となりの緑谷先輩と、肩が触れる。
 ただ肩が触れただけ……ただ肩が触れただけ……。
 僕は念じていないと、緊張でどうにかなりそうだった。
 実際、体はカチコチに固まっていたし、身動き一つとれない状態だ。
 だからといって立ち上がったり、身をよけたりしたら、不自然すぎる。
 結局、降りる駅まで、身じろぎ一つせずに、僕は座席にすわっていた。

 そのおかげで、体中がこりかたまった、というわけだ。
「なんだ? ずいぶん体がかたくなってるな」
 翼先輩が歩きながら、のんきに言ってくる。
 歩いているだけの僕を見て、それに気づく翼先輩もすごいけど、こういうときは指摘しないでほしかった。
「ちょっと……昨日、パソコンのパーツをいじっていて、肩がこってるだけです」
 僕はごまかす。
 緑谷先輩と肩が触れて緊張して動けなかった、なんて恥ずかしくて言えるわけがない。
「あんまり無理するなよ」
 翼先輩は、本気で心配した様子で言う。
「……気をつけます」
 僕はウソをついたことに、少し心苦しいものを感じつつ答える。
「あ、見えてきたよ!」
 黄瀬さんが弾んだ声で言って、道路の先を指さす。
 その指の先に、遊園地のジェットコースターや観覧車が見えてくる。
 ようやく、今日の目的地についたらしい。
 といっても、移動時間は1時間もかかっていない。
「ようやく」というのは、あくまで僕の体感だ。
 遊園地のゲートは、日曜日ということもあって、家族連れやカップルなどで、けっこう混みあっている。
「黄瀬さん。割引券を持っているんだったっけ?」
 緑谷先輩が、黄瀬さんにきく。
「はい。これです」
「それじゃあ、全員分のチケットを買ってくるから、みんなはここにいて。精算は、あとでまとめてね」
 緑谷先輩は割引券を受けとると、テキパキとチケットを買いに向かう。
 たしかに1人ずつならんでいたら、かえって時間のロスになるだろう。
 こういうときの判断力は、さすがに生徒会役員というだけあって、手慣れている。
 少しすると、緑谷先輩がもどってきた。
「はい、これ」
 それぞれに、チケットを渡される。
 ゲートでチケットをわたすと、入り口のバーがまわった。
「どうぞ楽しんでいってください!」
 女性のスタッフの人が、元気な声で言いながら、パンフレットを渡してくれる。
「おおっ! いろいろあるな!」
 翼先輩が、楽し気に言う。
 その視線の先にあるのがジェットコースターなのは、予想どおりだけど。
 僕はさっき受け取った、パンフレットを開いてみる。
 四つ折りにされているのを開くと、この遊園地のマップが描かれている。
 乗り物はもちろん、レストランやトイレの場所などもある。
 …………ん?
 マップの裏側に、高校生ぐらいの、顔の整った男の人の写真が、載っている。
 笑顔の写真の下には、PRキャラクターと書かれている。
 俳優かなにかだろうか。
「あ、これって、あの高校生探偵だよね?」
 黄瀬さんが、僕の見ていたパンフレットを見て、声をかけてくる。
「高校生探偵?」
 僕は首をかしげる。初耳だ。
「最近、事件を解決したりして、有名なんだよ。芸能活動もしてるらしいけど、遊園地のPRキャラクターもやってるんだね」
「そうなんだ。高校生探偵か……」
 中学生と小学生だけの兄妹で、「怪盗」みたいなことをした僕たちがいるんだから、高校生で探偵をやってる人がいても不思議じゃない……のか?
 どちらにしても、僕には関係ないか。
「なにしてるんだ、圭一郎。いくぞ」
 気づいたら、先輩2人と、少し距離があいていた。
「いま、いきます」
 パンフレットをたたんで、黄瀬さんといっしょに先輩たちに近づく。
「まずは、なにに乗る?」
 緑谷先輩が、マップを開いて、みんなにきく。
「遊園地といえば、ジェットコースターだろ!」
 翼先輩が意気込む。
「いきなりですか……翼先輩らしいけど」
 乗らないつもりもないけど、最初に乗るにはハードすぎる。
「わ、わたし! 乗ります!」
 黄瀬さんが片手を挙げる。
「大丈夫?」
 僕は心配して、黄瀬さんに小声で話しかける。
「三半規管は、丈夫なほうだから!」
 黄瀬さんは、気合いを入れている。
 僕としては、どちらかというと、翼先輩と2人きりになって、ちゃんと話せるかのほうが心配だったのだけれど、そこまで気が回っていないらしい。
 でも、それを心配していたらなにも始まらないか。
 黄瀬さんは、一歩踏みだすために、今日の遊園地デートをセッティングしたんだから。
「わたしも、いきなりはやめておくわ」
 緑谷先輩は、気が進まないらしい。
「よし、ならいこうか、黄瀬さん」
 翼先輩が、黄瀬さんといっしょにジェットコースターへ向かって歩いていく。
 僕と緑谷先輩は顔を見合わせると、後からついていく。
 乗るためではなく、見学するために。
 …………あれ?
 僕も、人の心配をしている場合じゃなかったんじゃないか。
 黄瀬さんが翼先輩と2人っきりになるということは、僕が緑谷先輩と2人っきりになるってことだ。
 あたりまえのことなのに、気づかないうちに、事実から意識をそらしていたらしい。
 意識したとたん、僕は緊張して、歩き方がわからなくなりそうだった。
「藤白くんは、翼くんとずいぶんと仲がいいよね?」
 緑谷先輩が話しかけてくる。
「え? あ、はい。……翼先輩は入学直後から、あの調子でうちのクラスにきてたんですよ。それで、いつの間にか、こんな付き合いに……」
 僕は兄弟だということには触れないように、説明をする。
「わたしを助けてくれたときも、2人いっしょだったよね?」
 緑谷先輩は、さらりと、鋭い指摘をしてくる。
 少し前に、緑谷先輩が誘拐されたとき、僕と翼先輩がたまたま助けた……ということになっているのだ。
 もしかして、あのときのことを、疑われてる?
「助けるなんてほどのことは、してないですよ。緑谷先輩に、つきそっていただけですし。それも、翼先輩の妹の美華子ちゃんのほうが、長くつきそってたんですから」
 僕は笑みをうかべて、すらすらと答える。
 さっきまでガチガチに緊張していたのがウソみたいに、冷静に言葉が出てくる。
 こういうとき、切り替えができる性格でよかった。
 もちろん本当のことなんて、話せるわけがない。
「…………そっか」
 緑谷先輩は、どこかあいまいにうなずく。
 まだ疑われている? でも、なにも証拠はないはずだ。
 だから、これ以上の追及も、しようがないはずだし。
「ごめんね。急にこんな話をして。あのとき、ちゃんとお礼も言えてなかったし……一度、藤白くんとは話をしてみたかったの」
 緑谷先輩はそう言って、笑う。
「僕とですか?」
 意外な言葉に、ふつうに驚いてしまう。
 だって、僕の学校での評価といえば、地味で、勉強はほどほどにできるけど、目立つほどできすぎるわけでもない、ごく平凡な1年生男子……のはずだ。
 ……まあ、翼先輩という目立つ人が、ちょくちょく会いにくるせいで、「まったく目立たない」というわけではないけれど。
「そうだよ。だって翼くんが、あんなに気に入ってる相手なんて、そうはいないんだから。翼くんって、友達は多いし、ノリもいいんだけど、どこか一線を引いてるところがあるから。……あ、これはわたしが勝手に感じてることで、クラスのみんながそう考えてるってわけじゃないと思うけど」

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「翼先輩が……?」
 人と距離を保つのは、やっぱり紅月の里と関係してるんだろう。
 必要以上に近づいて、巻きこまないためだったり、正体を探られないためだったり。
 翼先輩が、そんな器用なことをしているとは、思っていなかったけど。
「とまあ、あんまり楽しくない話をしちゃったけど、少しは緊張はとけたかな?」
 緑谷先輩が、笑顔で僕の顔をのぞいてくる。
 そのしぐさに、僕の心臓は跳ねあがる。
 だけど、そういえば最初より、かなり普通に緑谷先輩と話せていることに気づく。
「もしかして、気をつかってくれたんですか」
 そのことに気がつかないぐらい、いっぱいいっぱいだったのか。
 なんだか、恥ずかしい。
「藤白くん、わたしと話すとき、緊張しているみたいだったから。嫌われてるのかな、と思ったりもしたんだけど……」
「嫌ってなんていませんよ!」
 僕はあわてて言う。
 それだけは、断じて違う。
「ならよかった」
 緑谷先輩は、ほっとした顔をする。
 なんで緑谷先輩が、ほっとするんだろう、と疑問に思ったけれど、それを確認する前に、
「あ、2人が乗ったコースターが出発するみたいよ」
 緑谷先輩が言って、僕はコースターに目を向ける。
 2人は先頭に乗っていて、翼先輩のとなりにすわる黄瀬さんは、緊張した顔をしてる。
「黄瀬さん、大丈夫かな。だいぶ、緊張してるみたいだけど。翼くんに付き合わされて、無理してなければいいんだけれど」
 その緊張は、きっと、コースターのせいだけじゃないと思う。
 コースターがゆっくりと走り出し、スピードを上げていく。
 落下するところにさしかかると、
「「きゃああああああ」」
 コースターに乗っているお客さんの悲鳴が、響きわたる。
 黄瀬さんも、目をつぶって悲鳴を上げている。
 そして、となりの翼先輩は、落下中だというのに、平気な顔で僕たちのほうを見て手を振っている。
「やっぱり、おかしい人よね、翼くんって」
 緑谷先輩が、あきれたように言う。
「僕もそう思います」
 銃弾も見切って避けられる人だから、コースターぐらい、どうってことないのかもしれないけど。
 2人がコースターからおりて、もどってくる。
「はあ~~こわかったぁ」
 黄瀬さんは口ではそう言いつつも、楽しそうな顔をしてる。
「なかなか、いい眺めだったな!」
 翼先輩は、当然ながら平気な顔だ。
 それは観覧車とかに乗ったときに、言うセリフだと思う。
 黄瀬さんも、緊張がいくらか解けたらしい。
 だいぶ自然に話せているようだ。
「さあ、今度は4人で、ゆっくりしたものに乗りましょう」
 緑谷先輩の提案に、僕たち3人は賛成する。
 まだ遊園地での時間は、始まったばかりだ。

<第7章へつづく>

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