怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 8.2人きりの時間
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怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか? - 8.2人きりの時間

累計125万部!つばさ文庫の超ヒットシリーズ「怪盗レッド」の最新書き下ろし単行本!『怪盗レッド THE FIRST 誰のために、戦うか?』のためし読み連載。

8.2人きりの時間

 翼先輩と黄瀬さんを見送ってから、僕と緑谷先輩は反対方向に歩きだす。
「緑谷先輩、ありがとうございます」
 僕はお礼を言う。
「なんのこと?」
 緑谷先輩はきょとんとしている。
「黄瀬さんの気持ちに気づいて、こういう流れにしてくれたんですよね。僕では、そんな気配りはできなかったので」
「ああ……」
 緑谷先輩は、「そのことね」という調子でうなずく。
「うん、美緒ちゃんと話をしたの。翼くんがうまく乗ってくれてよかったわ。…………でもこちらは、ぜんぜんなのかなぁ」
 ……なにか最後にぼそりと呟いた声は、僕にはききとれなかった。
「いま、なにか言いました?」
「ううん、なんでもないわ。それより、なにに乗りたい?」
 緑谷先輩がきいてくる。
「ゆっくりしたものがいいですね」
 刺激の強いものは、あんまり得意じゃない。
 緑谷先輩に、情けないと思われるかもしれないけど……見栄を張っても、すぐにわかることだし。
「わたしもよ」
 緑谷先輩は、やわらかく微笑む。
 僕もその笑みにつられて、自然と笑みをこぼす。
 緑谷先輩は、そんなことを気にするような人じゃなかったな。
 いまさらながら、そう思いだす。
 僕と緑谷先輩は、肩をならべて遊園地をゆっくりとまわり始めた。

 1時間ほど見てまわり、僕と緑谷先輩は合流場所に向かう。
 まだ、翼先輩と黄瀬さんは来ていないようだ。
 約束の1時間を、少し回っているけれど……。
 携帯電話で連絡しようか。
 そう考えていると、遠くから走ってくる、翼先輩と黄瀬さんの姿が見える。
「ごめんなさい! ジェットコースターの順番待ちが、思いのほか長くて……」
 黄瀬さんが息を弾ませながら、あやまる。
「あれに絶対乗りたいって言ったのは、おれなんだから。黄瀬は気にするなって」
 翼先輩が、黄瀬さんに言う。
 あれ?
 翼先輩の呼び方が「黄瀬さん」という他人行儀なものから、呼び捨てになっている。
 これは、けっこうな進展なんじゃないだろうか。
「そんなことだろうと思ったわよ。それじゃあ、最後は4人でゆっくりまわりましょう。帰りのことを考えると、ここにいられる時間ももうあまり、長くないし」
 緑谷先輩の提案に、僕たちは賛成する。
 観覧車に乗ったり、きれいに整えられた花畑を見てまわったりすると、そろそろ帰る時間になる。
 名残惜しさを感じつつも、遊園地のゲートを出る。
 ほかの3人も、満足そうな、どこか名残惜しいような表情になっている。
 夕日に照らされながら、そろって駅に向かう。
 今日は久しぶりの遊園地だったけれど、こんなに楽しいところだったっけ? と自分でも不思議に思うぐらい楽しめた。
 前にきたのは、幼いころに父さんと2人でだったから、こんなふうに友達とくるのは、生まれてはじめてだ。
 だからだろうか?
「圭一郎くん、今日は楽しかった?」
 となりにならんだ緑谷先輩が、きいてくる。
「はい、楽しかったです…………って、ええっ!?」
 僕は応えかけて、思わず声を上げる。
 驚きすぎて、いま、僕は間が抜けた顔をしてると思う。
「どうしたの?」
 緑谷先輩は、そしらぬ顔で首をかしげている。
「いま、名前で呼んで……」
 たしかに言った。「圭一郎くん」と。
 僕はとまどいを隠せないまま、緑谷先輩を見る。
「なかよくなった後輩を、名前で呼ぶぐらい、ふつうでしょ?」
 緑谷先輩は、なんでもないことのように言う。
 からかわれてるのかな……。
 でも、緑谷先輩は、そういうタイプの人じゃないし。
 本当に、なかよくなった後輩を、ふつうに名前で呼んだだけ?
 特別な意味とかはないよな。
 そこまで、うぬぼれるのはどうかしてる。でも……。
 ぐるぐると考えてしまう僕を、緑谷先輩はおかしそうに笑って見てる。
 やっぱり、からかわれた?
 それでもいいか。
 緑谷先輩が、楽しそうに笑ってる。
 今日一日、先輩のいろいろな表情が見られただけでも、僕の心は満足しちゃってるから。

<第9章へつづく>

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